東京都利島村長 梅田和久
利島村は、東京から140㎞南にある伊豆諸島の一つで、島はお椀を伏せたような形をしています。面積は4.12平方㎞、周囲8㎞です。
この利島を全国的に有名にしているのが、椿です。島のほぼ中央にそびえるのが標高507メートルの宮塚山です。この山の全体が、椿林で覆われ、およそ20万本といわれている椿が植林されています。
利島の椿は、椿油をとるためのヤブツバキで、冬満開に咲いた花は、夏、椿とは思われないほどたわわに実をつけ、秋になると熟し種子を落とします。そしてまた、椿の花が満開を迎えます。毎年繰り返されてきた営み。どこまでも続く段々畑、20万本といわれる椿の木々は、私たちが今、先人の労の積み重ねの上にいることを教えてくれます。
しかし、それまで日本一の生産量を誇っていた利島の基幹産業であり、本村の産業振興の中核をなす椿産業に、十数年前から危機が叫ばれ始めました。椿林を取り巻く環境は、椿木の老齢化、病害木の発生、自然災害等による倒木等の出現、一番の懸案である椿産業の担い手である従事者の後継者不足があり、早急な対策が必要となっていました。
こういった背景のもと定住者・後継者確保のための基本戦略・行動計画の策定が進められました。
◎計画策定の背景
・少子高齢化が著しい本村においては、産業面とりわけ椿産業において、後継者不足に起因する衰退傾向が顕著であり地域活力の低下が明らかな状況にある。
・将来に向かってより良好な社会・生活環境を整えていくためには、島外からの定住者・後継者を積極的に受け入れながら、産業の活性化を図っていくことが不可欠である。
・定住者・後継者を確保するためには、住宅とともに安定した就業機会をつくることが必須要件である。
◎最重点施策・・・椿林更新と新定住者確保のための法人組織の設立
・最優先・最重点の対策として椿林の更新と農業の振興を主体に、定住者・後継者を確保することを主眼とした法人組織を設立する。
◎最重点施策とする理由
・椿産業において、椿林の高密化が顕著で、椿林を更新することが急務になっている。
・定住者・後継者の生活の安定のためには、就業機会の創出が最優先されなければならない。
・漁業・建設業から転じる世帯の収入機会をつくるためにも、椿産業と農業の振興が不可欠。
・新規定住者の転入には若年世帯層の確保を期して、少子化対策の一環とする。
こうした戦略を策定する間、本村としてまず、島外からの定住者を受け入れるための住宅を整備しました。その後、農業委員会、総合開発審議会の諮問を受けた後、農業生産法人設立準備会をへて、村主導により利島農産株式会社を設立しました。
法人は、椿林更新の実行部隊として組織化され、事業推進とともに就業機会の場を創出する目的を持っています。椿油産業の基盤を担う法人として、農業生産者の期待に応えられる法人となるよう取り組んでいます。