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 村の豆腐屋さんから有機の里づくりへ

印刷用ページを表示する 掲載日:2009年9月14日

福島県鮫川村長 大樂勝弘


7月末、村中の山際には山百合が咲き、緑の里山の景観に清涼な彩りを添えています。一時期は山百合の数が減りましたが、現在は「村の花」と呼ぶにふさわしく、たくさん目にするようになりました。今年で取組から10年目を迎える「中山間地域等直接支払制度」による地域活動の成果の1つです。また、村を歩いていくと面積は1畝、2畝と小さいが、これまた良く手入れされた大豆畑が目に飛び込んできて、まめで達者なお年寄りたちが頑張っていることを伺い知ることができます。
鮫川村は福島県南部の阿武隈山系頂上部に位置し、森林面積が約8割を占め、標高350~700mの丘陵地に集落が点在、農地は狭隘な傾斜地に散在する典型的な中山間地域です。人口は約4,200人、高齢化率30%を超え、年々高齢者のみの世帯が増えています。基幹産業は水稲・畜産・夏秋野菜などを組み合わせた複合型経営の農業です。
ここ10年間の本村農業の推移と地域の状況をみると、農業の生産性の低下が他産業と比べ年々拡大し、耕作放棄地の増加、集落機能の低下などが危惧されましたが、平成12年度に創設された国の農業政策「中山間地域等直接支払制度」にいち早く取組み、地域で話し合いを重ねることにより集落を守っていくという意識が向上、連帯感が強化され、地域コミュニティーの再生が図られました。また他地域との競争も見られ、桜の保全、紫陽花や山百合の里など農村環境の美化等の向上にも効果が現れました。
私は現在、国の中山間地域等総合対策検討会の委員を務めていますが、将来にわたり日本の農業、とりわけ「農村」を維持していくために本制度の継続を要望し、中山間地域の農業に自信と誇りを持って次の世代に引き継ぐことが責務と思っています。
 
さて、この小さな村は平成15年に自立の道を選び、沈んでいる村の経済と村民の心に元気を取り戻し、笑顔が絶えない健康・長寿の村づくりを目指して、大豆による新たな特産品の開発を目標に掲げ、平成16年「まめで達者な村づくり」事業に取り掛かりました。大豆に関する村民の認識を再確認、特に、世界一の長寿国である日本の味噌や醤油、豆腐など大豆中心の食習慣や大豆の効能について学習しました。
 
次に大豆栽培を60歳以上の高齢者にお願いし、疾病予防に効果があるイソフラボンを在来種より多く含む福島県が開発した新品種「ふくいぶき」を奨励しました。さらに思いを形にするために村職員を大学の醸造学科の研究室に研修員として半年間派遣しました。味噌の研究室で、豆腐、納豆製造まで指導していただきました。
 
平成17年2月、村内産大豆の加工品第1号「ドリンク用きな粉」を「毎日飲んで村民が健康に」の願いを込めて村役場内で販売しました。秋には農家待望の直売所「手まめ館」が開所し、「村の豆腐屋さん」の加工所も併設され、試行錯誤を重ねて村産大豆100%の「達者の豆富」の製造販売も開始しました。五年ほど前までは、村内唯一の美味しい、おじいちゃんの豆腐屋さん「金ちゃん豆腐」がありましたが高齢により廃業され、村内に豆腐屋が無くなっていたのです。「村の豆腐屋さん」の豆腐は通常よりは割高でも村産大豆で安心安全、味が濃くて美味しいと人気があり、年々売上げが増えています。村の人々には、豆腐、味噌、納豆などの大豆の加工食品を多く摂る和食中心の食習慣があり、それが健康の源、長寿の源であると思います。
 
高齢者に大豆栽培をお願いした「まめで達者な村づくり」、職員が懸命に学んだ大豆の加工、味噌作りが五年目にして「ふくしま県産品ブランド」に指定され、評判が広がり、豆腐、納豆、きな粉、豆菓子なども消費者に喜ばれる商品になっています。農家の皆さんにも自信がつきました。中山間地域だからこそ「食の安全、安心」を消費者に提供できることを確信しました。今こそ、村全体をブランド化しようと、化学肥料、農薬等を使用しない農業を目指し、畜産農家の堆肥に、耕種農家の稲わら、米ぬか、もみ殻や高齢者に集めてもらう落葉などを混ぜて、発酵を繰り返した良質堆肥作りを始めたところです。まめな暮らしが育む「有機の里づくり鮫川村」を次の目標にして頑張っています。