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 姫島村の「ワークシェアリング」について

印刷用ページを表示する 掲載日:2009年6月1日

大分県姫島村長 藤本昭夫

姫島村は、瀬戸内海の西端、大分県国東半島の北、5キロの海上に浮かぶ周囲17キロ、面積6.8平方キロ、人口約2,500人の沿岸漁業と車えびの養殖を主な産業とする、大分県唯一の村であります。
「姫島車えび」は、大分県の特産物として全国に知られ、また、本年「踊り継ぐ盆踊り」として国土交通省の「島の宝100景」に選ばれた、毎年8月に開催される「盆踊り」の踊りの中の1つで、子供達が、白い化粧をして、狐に扮装して踊る「キツネ踊り」も全国的に有名で、最近では渡り鳥ならぬ渡り蝶の「アサギマダラ」の休息地として脚光を浴びています。そして、最近注目されているのが、姫島村が約40年ぐらい前から取り 組んでいる「ワークシェアリング」です。

昨年からの世界規模の未曾有の経済危機による雇用状況の悪化に対処するための手段として、企業の間で「ワークシェアリング」が大きな関心を呼んでいますが、姫島村の「ワークシェアリング」は、「ワークシェアリング」という言葉もない昭和40年代前半に、過疎化、人口減対策として若者を村に残すための取組みとして始められました。

姫島村は、離島という立地条件のため、物質等の輸送はフェリーで行わなければならず、その分、本土に比較し輸送コストがかかることから、経営的に村外からの民間企業の進出は難しく、村の活性化を図っていくためには、地場産業の育成と若者をはじめとする雇用の場の確保が大きな課題となっています。このため村内で最大の雇用体である役場は、「官」ができることは「官」がやるという方針のもと、「職員の給与を低く抑えて、できるだけ多くの職員を雇用する」という雇用施策をとってきたわけであります。
現在、村の人口2,519人に対して、役場の職員は191人で、人口13人に1人となっています。たしかに数字だけをみればびっくりしますが、7割が現場の職員です。診療所34人、フェリー33人、高齢者生活福祉センター28人、保育所11人、清掃センター6人、幼稚園5人、簡易水道4人、給食センター4人、浄化センター2人等、計134人が現場の職員で、村長部局は教育委員会9人を入れて、57人です。
また、最近では、さらに多くの人を雇用する手段として、主に主婦を対象に、月3分の2の勤務日数で、給与も3分の2とする雇用形態もとっています。
これに対して給与水準、いわゆるラスパイレス指数は現在71.6、全国で2番目に低い数字です。第1位は北海道の夕張市で68.5となっています。
昭和40年前後までは、他の町村の役場職員と給与水準はあまり差はなく、また、役場と民間の比較においても、民間の方が高い場合もありました。当時、役場に入るよう勧められた人が、「役場のような給料の安い所に入ってたまるか。俺は、漁師になる。」と言って漁師になった人もいますし、他の職場に就職した人もいます。このように、当時は、姫島はもちろん、全国的にも公務員の給与は民間に比較して、決して高くはありませんでした。高度成長期に、他の町村の給与水準は大幅にアップしましたが、姫島村は、上げ幅を低く抑えて、職員数を増やすようにしてきたため、給与水準、ラスパイレス指数は下がってきました。現在、他の町村の給料表は主に7級制を採っているようですが、姫島村は3級制で、国の給料表の3級までを使用しています。しかしながら、他の町村の役場の職員と比較して低い給与も、農協、漁協、車えびの養殖会社といった村内の主な職場の職員の給与に比較すれば、昭和60年代初めまでは、大体同じくらいでしたが、現在は、役場の職員の方がかなり高くなっています。
東京が100で姫島も100というのはどうでしょうか。私はこの職員給与の差、ラスパイレス指数の差は、地域格差ではなく、地域差と考えています。雇用の場が少なく、過疎化、人口減を防ぐための姫島村の方策は、これがベストではないかもしれませんが、ベターであると 考えています。村民はもちろん、職員も、採用の時点で、役場の給与の考え方について納得しております。また、当然のこととして村長、議員の給与、報酬も低く抑えています。役場には、職員組合はありませんが、給与水準以外は国に準拠して決めています。また、副村長(助役)は平成3年、現在廃止されている収入役は平成13年から置いていません。
ただ、このような役場を舞台とした「ワークシェアリング」は、これ自体が生産性があまりないため、人口減にある程度歯止めをかける一定の効果はありますが、村活性化の原動力とはなりません。何といっても民間の経済活動が活発になることが地域活性化の大きな力になります。昨今の地域を取り巻く厳しい社会経済情勢の中で、これからも「ワークシェアリング」を大事にしながら、村の最大の課題である地場産業の振興と雇用の場の創出を図るため、交流人口の増加を目指して、村の基幹産業である水産業と共存共栄できる観光の振興、『水産業と観光の島、「姫島」』づくりに、村民一致協力して頑張ってまいります。