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 花と緑と交流のまちづくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2008年11月17日

北海道清里町長  橋場 博


馬鈴薯とビートの収穫に忙しく動き回っていた大型トラクターのエンジン音も途絶え、収穫を終えた畑からは黄金色に強く色づいたカラマツ林越えに冠雪を頂いた日本百名山に数えられる秀峰、斜里岳が遠望できる。
その麓には、日本で最大規模となる清里町の畑作田園地帯が耕地防風林に守られ、明治開拓使により東西南北550mの真四角に区分けされた殖民区画の姿を残し整然と広がる。長年にわたる先人や農業者の労苦によって基盤整備された美しくも豊かな清里町の農村風景は、全国農村景観百選、さらには特選の20選にも選ばれている。9,200ヘクタールの耕作農地を230戸の農家で経営しているから、1戸平均は約40ヘクタールとなりEUの平均耕作面積をも凌駕する。昨年から始まった新たな農業の経営所得安定対策やWTO、EPA交渉に加え、原油価格高騰による肥料価格の値上がりなど様々な影響が強く懸念される昨今だが、日本一の畑作地帯と自負する清里町の農業が立ち行かなくなるとすれば、果たして日本のどこの農業が生き残っていけるのだろうかという思いも強い。ここが清里町農業、ひいては日本農業の大きな転換期と正念場となろう。
今、清里町では住民と行政のパートナーシップ事業として、「花と緑と交流のまちづくり事業」に町民挙げて取り組んでいるが、平成13年からスタートした第4次総合計画の重点プロジェクト事業として住民組織であるまちづくり委員会が推進母体となっている。
町全体を庭園(ガーデン)とし、花と緑の潤いとやすらぎ、美しさを地域に住む住民と訪れる多くの人がともに共有しあえるまちづくりを目指した活動だが、昨年は政府主催の第1回みどりの式典で緑化推進運動功労者として内閣総理大臣表彰を受賞するなど、住民団体が数々の全国的な賞を受けている。
商店街の店先や道路、住宅街、農村地区での花の植栽・管理や植樹による緑の回廊づくり、日常的な道路の清掃・草刈などの環境美化活動、オープンガーデンやイベントの開催、農村景観や森林資源を活かした田園の散歩路(ウォーキングトレイル活動)、国内外の自治体との相互交流や農村交流・移住体験の受け入れ、異業種協力によるコミュニティビジネス研究など一年を通じ実に多様な活動が住民主導で行われている。
これらの活動は一朝一夕に生まれたものではなく、昭和50年代初期に行政区制度から自治会制度にいち早く切り替えるなど、長年にわたり培ってきた地道な住民自身による自治活動が基礎をなしている。また、昭和30年代半ばから進めてきた農業構造改善事業を始めとした産業基盤整備、道路・下水道・福祉施設・公営住宅などの生活基盤整備、加えて市街地・商店街近代化事業による街なか整備が時間をかけながらも計画的に進められ、多少の生活のゆとりとともに新たな豊かさを日々の暮しや地域のなかで見出そうという住民意識が自然と醸成されていったことが今日の活動につながっていると私なりに考える。
また、いつの時代においても地域を支える力の源は人の心であり、人と人との豊かなかかわりが何よりも大切な私の町の宝となっている。
今年8月に3日間にわたり農・食・景観をテーマに「ガーデンアイランド北海道2008 in 清里フォーラム」を開催し北海道内外から延べ700名近い参加を得たが、メイン講師をつとめていただいた文化地理学の世界的権威でもある前パリ・ソルボンヌ大学総長ジャン・ピエール・ピット教授は、「景観はその地に暮す人々の生産と生活の営みの結果である」と語ってくれた。「花と緑と交流のまちづくり」を住民協働のエネルギーとし、さらなる共生のまちづくりに向け新たな一歩を踏み出したい。