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 地方の現状と課題

印刷用ページを表示する 掲載日:2008年8月11日

和歌山県白浜町長
 立谷 誠一


私達の町、白浜町は和歌山県の中ほどの所に位置しており、2年余り前に旧白浜町と旧日置川町が合併し、新しい白浜町としてスタート致しました。人口は約2万4千人、面積は20,102平方kmとなり、主たる産業は観光産業で、年間約330万人余りの観光客をお迎えするリゾート観光地です。
又、高齢化率は約30%で少子高齢化の先進地でもあります。人口の推移は、旧白浜町は昭和42年で約2万人でしたが、40年後の今日でも、ほぼ2万人です。従ってこの間、人口の増加は無く40年の間に生まれ育った子供に相当する人口が流出或いは死亡しているのです。又、旧日置川町は昭和30年代の1万240人が最大人口で、その後50年近くの間に約半減致しました。いわゆる過疎地域です。
白浜町の現状は、時代の縮図であり、将来の日本国を類推することが出来るのではないかと考えます。
先ず都市の繁栄は何により支えられているのか、それは紛れもなく地方の存在に他ならないと断じます。例えば地方は大切に育てた次の世代を、都市へ送り続けてきました。都市は、若く健康で将来の可能性に富んだ若者を受け入れ、夢と希望に満ちた町づくりが出来てきましたが、一方、送り出した側は赤子の時から手間暇と費用を惜しみなく掛けて育て、さてこれからという年代になると都市へ吸い込まれていく。全国の地方は、その年月の積み重ねでした。
当然、若者を送り出した地方の町村は、残された者(必然的に高齢者中心の構成となる。)での町づくりを余儀なくされるため、コストをかけ病院や老人ホームなど社会福祉資源の整備に努め何とかやりくりをして、ささやかな町づくりをしてきたというのが現状です。少なくとも終戦後ずっと「コストは地方に、果実は都市で!」でした。時代は進み、地方でも少子化の波が吹き荒れており、往時は150名も学んでいた学校でも今は新入生1~2名、全校生徒10名前後という小・中学校がたくさん出現しています。これでは町づくりは出来ません。さらに重要な視点は、地方は都市で大量に生産された工業製品の大消費地の役割も担ってきた事です。今日では、そのいずれも担えなくなって来ています。
都市は、地方に元気がなければ成り立ちません。私は思います、このままアンフェアでアンバランスな状況を放置すれば、間違いなく地方は行き詰まり、連動して都市の成長は止まります。この事は国家が行き詰る事に繋がって行きます。
最近中央政府が定め発する法律にも矛盾を感じる事があります。例えば介護保険制度であり、今話題の後期高齢者医療保険制度です。いずれも換言すれば、これらの制度は保険制度ですので、分母に対して分子の度合いで負担が決まります。若い者の増加が見込めない、分母の増加の見込めない地方で、大量の分子の増加が予想される中に於いて成り立つのか?大変心配です。現在の制度では、高齢者の方々の負担は年々増加していきますが、働く事が出来ない世代の、年金収入しかない方々の生活はどう守るのか?
そもそも保険制度とは、相互扶助ですので大勢の人の参加で成り立ちます。後期高齢者という限られた年代のみの保険制度にすれば色々な矛盾が出てきます。従って、元気な世代も参加させるべきだと考えます。今、高齢者と言われる方々は、若い頃健康保険に加入して、当時の高齢者の医療を支えてきた方々です。こうした制度は普遍的でなければならないと思います。元気で保険が殆ど必要でない若い世代が新しい制度を見て、自分達も老後に保険が必要になった時、こうした扱いを受ける事になるという事を知れば、保険制度の大きな危機を迎えるのではないかと心配です。
次に労働者派遣制度についてですが、過去の時代は、人を物扱いに斡旋して報酬を貰う行為は忌み嫌われ禁止でしたが、1986年、労働者派遣法が作られ、地方都市の隅々まで派遣事業が浸透してまいりました。その広がりにより、地方の住民は更に低廉な報酬で労働を余儀なくされており、この事により企業は効率的な経営が出来るようになりましたが、反面、不安定な就労から国民が受けるダメージも大きく、社会に対して刹那的な思考となり、社会が不安定化する事が心配されています。私達の町に於いても就労先が無く、若くして生活できない為、保護を求める方々の数が増加しているなど、政府の施策がいち早く色濃くあらわれています。
次に、我々の町の町民の一人当たり所得は、県下で最下位にあります。よく調べてみると、県下の他の観光の町も概ね同じような状況にあり、経済的構図が都市と直結している事が分かります。いわゆるストロー現象です。働いても、働いても得られたお金はレジの機械を通ったその瞬間に、主として都市に本社機能のある企業の資金として還流していく。否応なくグローバル化された世界経済の仕組みに組み込まれているのです。総合的で抜本的な視点で改善策を希求する必要性を感じます。