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 地球にやさしい木質エネルギー

印刷用ページを表示する 掲載日:2008年6月9日

岩手県住田町長  多田 欣一


20世紀から21世紀へ持ち越された課題は数々あるが、そのうち最も大きな課題は「環境」と「エネルギー」であると考えている。
最近、特に地球温暖化の情報が各メディアで報道されている。この二酸化炭素の問題はここ100年の間のできごとで、地球50億年の歴史を、今、私たちの時代にこれほど蝕んでも良いものか。 
私の町、岩手県住田町は北上山脈の南端に位置し、町の総面積の90%を山林が占める林業の町である。その林業の町でさえ、燃料は「化石燃料」にとって変わったのである。
一方、山には商品とならない木材が、そのまま放置され、この林地残材が台風や大雨のとき、水と一緒に山を下り、下流域に大変な洪水被害をもたらすこととなる。本来、資源であるべき木材が洪水に一層の勢いをつけ被害を拡大するのである。
戦前までの日本の暮らしは、住宅、日用品、燃料は勿論、橋までも木材であった。これが、化石燃料や工業製品となり、山林の価値を低下させていったのである。
わが町では、この木材と山林に価値を見出す取り組みを続けている。そのひとつが、木材の燃料化、いわゆる、木質バイオマスエネルギーへの取り組みである。
平成12年「住田町地域新エネルギービジョン」を策定、「森林エネルギーの町づくり」を基本理念として、早速、協同組合の集成材工場に木屑焚きボイラーを導入。集成材工場で発生する背板、端材を燃料として木材の乾燥と工場内の暖房として利用した。
翌年には、木質エネルギー利用検討委員会を立ち上げ、スウェーデンベクショー市より講師を招き、岩手大学との産学官連携で、その意義、手順等を積み上げ、この連携は数年間続いてきている。
そして、この年、新設の町立保育園に床暖房のペレットボイラーを全国の公共施設では初めて導入し、今でも全国各地からの視察が絶えないところである。
平成14年には木質ペレットの製造試験を、経費のかかる乾燥工程を省略する方法で行い、翌15年には製造施設を設置し、岩手県内に木質部だけのペレットの販売を開始した。当初1kg10円と格安で、利益より木質ペレットの普及と工場残材の有効利用を優先したものである。時を同じくして、岩手県では民間業者と提携し、いわゆる「岩手型ペレットストーブ」を商品化している。 
平成16年には「環境と経済の好循環のまちモデル事業」の指定を受け、その後3年間で、町内に「ペレットストーブの導入補助」、集成材工場には工場残材はすべてエネルギーにする「木屑焚きボイラー」と「発電施設」を導入し、木材乾燥と工場内で使用する発電をしているところである。さらに、発電後の余剰熱は、イチゴハウスの暖房に利用している。
環境三法が施行されてからは、工場残材を廃棄物とし処分するのか、エネルギーとして資源にするのかは、事業体にとっても環境にとっても大きな意義を持つところである。
また、ペレットストーブは私の町では一般家庭を中心に70台が稼動しており、世界中のペレットストーブを見ることができる。岩手県内では、本町をはじめ、多くの自治体でペレットボイラー、ストーブの普及が進んでおり、本町の国道の「道の駅・種山ヶ原」や「仙人峠道路」では融雪のためのロードヒーティングにも使用されている。
木質バイオマスエネルギーの取り組みは、先祖から受け継いだ貴重な財産を町の宝とし、山林の恵みを百%生かし、山林の価値を高めるとともに、地球温暖化対策、二酸化炭素の排出減を、町をあげて挑んでいる「小さな町の大きな挑戦」である。