高知県大豊町長 岩崎 憲郎
「限界」という言葉にはいろんな反応があるようだが、長野大学大野教授が65歳以上が半数を超えた集落を「限界集落」、55歳以上が半数を超えた集落を「準限界集落」、それ以外を「存続集落」という概念を提唱されて十数年が経つ。最近地域間格差の問題が大きく取り上げられる中で、「限界集落」という言葉がよく使われている。
この概念で我が町大豊町を見ると、面積314平方キロメートルで、標高200メートルから800メートル近くの急峻な地形に85の集落が散在し、そのうち55の集落が限界集落、27集落が準限界集落であり、存続集落はわずかに3集落である。さらに町の人口5,492人のうち65歳以上の人口が50.8%であり、「限界自治体」という状況にある。先の国勢調査で、人口が5千人を超える自治体で高齢者が半数を超えた団体は全国で我が町のみである。
その現状は、過疎、高齢化の問題は勿論のこと、年間に生まれる子供数が十人を切る状況となる中での教育の問題など、多くの困難な課題を抱えあえいでいる。
しかし、環境の世紀といわれる21世紀を迎え、山村の果たす役割 が見直される時代となり、人が生きていく上で最も大切な水や空気を守り、海の幸をも育む森林に代表される山村の多様で公益的な機能が評価される時代となった。また、最近深刻さを増している地球温暖化の問題にかかる京都議定書の温室効果ガスの削減目標のうち、省エネなどの取り組みによる削減0.6パーセント、排出権取引による削減1.6パーセントに対し、森林の吸収量は3.8パーセントと、最も多くの温室効果ガスの吸収源としての森林の働きが必要となっている。排出源となっている石油を中心とする化石燃料に対し、吸収源となる森林は100年で完全に再生の可能な資源である。
こうした山村の公益的な機能は、そこに暮らす人々の生活、そして、農林業を中心とする生産活動など、日常の営みにより守られている。そこに、山村に人が暮らすことの必要性、そして重要性があり、そのことは山村に暮らす我々にとって勿論重要なことであるが、それ以上に都市に暮らす人々にとって重要なことである。
こうした公益的な機能を果たし、今後とも果たしていかなければならない我が町の将来への取り組みを考えるとき、唯一最大の資源が森林であり、森林しかないと言っても過言ではない。
森林には水や空気を守り炭酸ガスを吸収するなどの公益的な機能を発揮する環境財としての価値、また、木材資源を生産する経済財としての価値があり、その何れの価値を高めるためにも、間伐などの手入れが不可欠である。手入れが行き届き下層植生のしっかりした森林は、炭酸ガスを吸収し水や空気を守り、土砂崩れなどから国土を守るなどの環境的に機能の高い森となり、また良質の木材を生産する経済的にも価値の高い森林となる。
そのためには、間伐などの手入れと同時に、搬出し、製材、加工、またバイオマスエネルギーとして活用するなどの林業、林産業が育ち、雇用が生まれ、そして林業従事者、森林所有者など携わる人たちに所得が生まれる、環境と林業、林産業の調和した取り組みが必要である。産業政策ではなく地域政策として外材輸入により自給率わずか20パーセントとなった国産材の価格補償制度、また「超・超高齢社会」となった本町のような町では木材産業に対する法人税などの国税を優遇する特区制度など、森林を資源として山村の暮らしが成り立つ仕組みを再構築する施策が必要だ。
これこそが、環境世紀にふさわしい元気な山村再生への残された道である。