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 まちづくりは人づくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2007年12月17日

鳥取県町村会・岩美町長  榎本 武利


町長に就任してから早いもので10年がすぎようとしています。役場の職員の時期と比べても、この10年は一瞬のうちに過ぎてしまったように思えてなりません。明治維新や大戦後の民主主義による地方自治の始まりに匹敵するといわれた、平成の大合併・地方分権・行財政改革の直中にあったせいでしょうか。岩美町は平成15年10月に鳥取市との合併の是非を住民投票により決し、単独で町民との協働による自立を目指すこととしました。
始めに岩美町を紹介しておこうと思います。役場に届く手紙の中には、「石見町」と宛名書きされたものが時折あってがっかりしてしまいます。岩美町は、日本海に面する鳥取県の東北端に位置し、昭和29年に九ヶ町村が合併し、当時の岩井郡と邑美郡から「岩美」町となった、面積が122.3平方キロメートルの町です。世界遺産へノミネートされたこともある、山陰海岸国立公園の中心となる浦富海岸のある町です。世界遺産への登録が決まった石見銀山は、島根県の石見の国です。目下、岩美町は山陰海岸国立公園とほぼ同じエリアの因幡、但馬、丹後の市町とともに、ユネスコの「ジオパーク」への登録を目指して取り組んでいます。白砂青松とリアス式の海岸、海中公園の景観は無論ですが、鳥取砂丘から但馬海岸、柱状節理の玄武洞、丹後半島への広域なエリアで、地殻変動や火山活動、更に地球の生い立ちにつながる地質や地層を見ることができるからです。この浦富海岸とともに、湯かむりの奇習が伝わる源泉かけ流しの岩井温泉、松葉ガニ・岩ガキ・白いか等の豊富な海産物を有しており、都市との交流を対流にしようと取り組んでいます。
また、因幡の傘踊り、麒麟獅子舞などの伝統文化、五畿道のひとつである旧山陰道、奈良時代から採掘されていたといわれる荒金鉱山などの歴史遺産もあり、豊富な資源に恵まれています。こうした環境は、町民気質において、優しくて親切ではあるが引っ込み思案な「煮えたら食わあ」という方言にあるようになってしまいます。自立を目指すには、町民が自信と誇りを持ちながら、資源を活用した地域づくりが必要だと考えています。
私は、就任以来「まちづくりは人づくり」「教育の町岩美」を掲げてきました。岩美町には、「大黒さま」「一寸法師」「青葉の笛」などを作曲し、音楽教育の先達であった田村虎蔵先生、第二次世界大戦後に日本の国連加盟に貢献された澤田廉三先生、先生の奥様でエリザベスサンダースホームを設置し戦争混血児の母と言われた澤田美喜先生、昭和22年新憲法下で初の衆議院議長となった松岡駒吉先生、「夢の如し」を著し国の図書館の整備・普及に尽力した坂本四方太、「第七官界彷徨」「こほろぎ嬢」などを著した尾崎翠などの偉人・先人を輩出した故郷であります。これからも町民が誇りにし、子供達が励みにしながら個性豊かに逞しく育って欲しいと思うと同時に、人材は最大の資源であり宝物という理念で取り組んで行きます。打算的ではありますが、他の地域で子育てをするより岩美町で、と評価されればとも考えています。
平成13年4月には、4校を統合し南小学校を新築開校し、本年度は岩美中学校改築に着手し、平成21年度の完成を目指しています。平成13年度からこの町内小中学校4校に毎年度一校当たり100万円の交付金を交付し、特色ある学校づくり事業を始めました。かつて9校あった小学校を3校に統合しましたが、各校ごとに100年の歴史によって培われた伝統や校風をこの新学校にも作らせたいと考え、学校ごとに自由に使ってよい予算としています。また、学校支援職員・図書司書の全校配置と、小学校3年まで及び中学校全学年の30人学級を実施するなど、県内では先駆けた取り組みを行っています。町議会では、度々成果を問われていますが、長い目で見てくださいと言っています。このたび某教育雑誌の「自治体の教育予算で見る!教育格差」という特集で、全国で先進的な10自治体のひとつとして掲載され、望外の喜びとなりました。