宮崎県美郷町長 林田 敦
日本の国土は、その67%が森林に覆われ、森の国と言はれている。われわれ国民は長い歴史の中で、育まれた森の恩恵を受けて暮してきた。森林率76%で林業県として知られるわが宮崎県は、戦後復興期の中で、特に昭和30年代から荒廃した森の再生を目指し、県民との協調の下で拡大造林を強力に推進し、人工林率62%の達成を実現するに至った。
このような動きは国土全体に及び、人工林率50%以上の県が16県、国土全体で41%を成し得たことは、日本が木材の消費国であり、生産国でもあることを意味しているといえる。山村地域に定住する住民は、森林の経営と同時に、浸水の防止、土砂の流出崩壊の防止等の国土保全をはじめ、水資源のかん養、気候の緩和、大気の浄化などの公益的機能の役割を担い果してきた。平成3年の時点で、このような公益的機能を計量化すれば、年間39兆円に上ると試算されていることを考えれば、日本列島における森の偉大なることを痛感する。わが国の将来の繁栄と、1億2,700万国民の安全と豊かな暮しの土台は、国土の67%を占める森の保全が完全であることだと考察するとき、山村に住む国土全人口の9%、1,200万人の人々の責に依存することなく、全体国民の責任において守り保全すべきが当然というべきであり、その態勢づくりは急ぐべきだと痛感する。今日山村地域社会は少子高齢化が急ピッチに進行している。わが美郷町を例にとれば、面積448平方キロメートル、林野率62%、人口7,200人の内65才以上の高齢者率は40%に達し、全国試算で平成63年に予想される比と同じで実に驚くべき値であり、国内山村800町村も大同小異の現状にあることが想定される。このような現状において若年者は減少する一方、今日まで地域に住み着き、森をつくり守り育てゝきた人々は高齢化し、保全に寄与する機能は年毎に弱体化し、今後の早急なそして抜本的実効的な対応が求められている。国土保全についてはその手法はいろんな形で議論され、或る程度の論点は整理されたかに伺い知るが、実行に向けては進行していない状況は残念に思う。このような状況下において美郷町は、町土の保全については勿論、生産組織や住民との協調において、保育の推進や森の再生、町土の保全に真剣に取組んでいるが、素材価格は、昭和50年代の後半から今日まで下落を続け、中間収量の確保も極めて困難、山林労務の中心をなす作業班編成も人口高齢化と若者減少によって極めて困難な状況にあり、このまゝ推移すれば、町土の保全はもとより、森の崩壊に至ることを大いに憂うものである。このような状況は全国山村地域全て同様であるとすれば淋しい限りで残念である。国土保全については、今は亡き松形宮崎県知事の提唱によって全国の段階で広くしかも国民的大きな課題として議論されてきた。これが議論に終らず、確実な実行によって万全な国土の保全が実現できるよう期待する。国土の保全は、山村に定住する人々特に若者に限定して責を依存することなく、全国に広く若者にアピールし、論点として注目すべき山林労務者の年金と所得保障制度は、その内容は別にしても基本的な要素だけに十分なる議論によってその実現に期待したい。国土の保全の重要性については、広く国民に関心が高まりつつあることは喜ばしい。国土の保全が国の繁栄と、国民の安全と豊かな暮しの土台をなすものである以上、国民的課題として国の責任において推進すべきは当然であり早急の実現を期待するものである。