岩手県矢巾町長 川村 光朗
岩手県のほぼ中央に位置する矢巾町は、面積67.28平方キロメートルを有し、東は北上川に至るほぼ平坦部、西は奥羽山脈に連なる霊峰南昌山麓からなり、都市化と緑豊かな田園環境に恵まれた人口27,000人の町である。この緑豊かな田園風景と都市化の町並みを眺めながら、私はウォーキングを欠かすことは無い。ウォーキングを始めたのは、平成15年「健康長寿の町宣言」を制定してからである。
本町の健康づくりのステップは、国保ヘルスアップモデル事業に取り組んだ平成十四年度である。現在、国保ヘルスアップ事業に取り組む保険者は、今年は805保険者と聞いた。国保ヘルスアップモデル事業が開始となった時の平成14年度に、本町は全国8市町の中に選出された。
モデル事業は、生活習慣病の予防と改善を目的とした「個別健康支援プログラム」の開発であった。本町では、生活習慣病「脳卒中」予防を目的とし、その危険因子となりうる「高血圧」「高脂血症」「糖尿病」の予防と改善のプログラム開発に取り組んだ。
まさに、平成20年度からはじまる「特定健診・特定保健指導」の先駆け的事業であり、モデル事業で培った事が、今大きく役立つときが来た。
実は、国保ヘルスアップモデル事業の補助事業があると聞いたとき、計画内容については担当者に任せ、まず採択を受けることが先決と考え、厚生労働省保険局国民健康保険課長に「是非、当町にやらせてください!」と伺った経緯がある。当時の担当課長から「ヒアリングを行ってから、決定になります」と言われ「じゃー、私がヒアリングを受けに来ます」と、言ったところ「町長は、いいです」と、やんわり言われた経緯を思い出した。
事業実施にあたっての評価は、岩手医科大学衛生学公衆衛生学講座にお願いした。岩手医大との共同実施は大きな成果となった。
事業が進むにつれて、今までの健康づくり事業とは、住民の反応が違っていた。それは、私にいろいろ伝わってきた。「町長、今日は1万歩歩いた」、「刺身の醤油はこのように付けて食べると、塩分を減らせる」と実際に食べてみせたり、「ただ歩くことが恥ずかしかったので、スコップを担いで歩いた」「タバコを止めた」等、男性参加者の生き生きと健康づくりに取り組んでいる様子を、自ら話題にする人が出てきたのは大きな発見であった。女性の方が話題にするのは良く耳にするが、男性の声は驚きであった。そして、楽しんでモデル事業に参加している様子が直接伝わってきた事は、嬉しかった。
国保ヘルスアップモデル事業を開始した2年目の平成15年、平成12年市町村別生命表の概況が発表になった。市町村別平気寿命の結果である。本町の結果は、岩手県内で男性が第1位、女性は第2位、男女併せると第1位の結果となった。平均寿命の成果と、ヘルスアップモデル事業を実施している参加者の反響も含めて、今後進むべき道標として「健康長寿の町宣言」を、平成15年12月22日制定した。
平成17年8月25日、東京九段会館ホールで開催された第22回「健康な町づくり」シンポジウムにおいて、矢巾町国保ヘルスアップモデル事業の取り組みについて事例発表する機会を得た。また、平成18年9月26日、岩手県国保制度充実強化フォーラムが岩手県民交流センターで開催された際も本町の事例を発表した。
特定検診・特定保健指導が20年度から全保険者に義務化される。内臓脂肪型肥満に着目した生活習慣病予防が重点となる。
現在私は、日々の生活の中で、生活習慣を少しずつ変えている。夕食は八時頃までには済ませるようにし、ウォーキングを、毎日30分程続けるようにしている。また、役目がら飲席が多く酒量が増えるため、焼酎2、お湯8に梅干を入れ3杯迄と気を付けている。平成15年から少しずつ取り組んできた結果、体重は7キログラム減少、腹囲が細くなり、血圧も安定した。毎日の実践は根気が要る。
しかし、今年は「町長がスマートになったので、自分も取組んで見たい」と、参加した人もいると聞いた。住民の健康に対する意識を少しずつ変え、町民誰でもが元気で長生きできる「健康長寿の町」にしていきたいと考え行動する毎日である。