ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > 町村長随想 >  剱の懐で生まれた町

 剱の懐で生まれた町

印刷用ページを表示する 掲載日:2007年5月28日

富山県上市町長  伊東 尚志


上市町は、新川平野の中央に位置し、県都富山市の以東約15㎞にあって、南東に長く延びた長方形をなしています。総面積は236.77平方kmですが、その7割を山林が占めており、東南部には標高2,999mに達する「剱岳」を有しています。
北アルプスに君臨し、名著『日本百名山』(深田久弥著)では豪宕、峻烈、高邁の風格と称されるこの霊峰「剱岳」は、町のシンボルとして町民の心に誇らしさを与えているだけでなく、私たちの命の糧である清らかな水をもたらしてくれます。
こうしたことから当町の水は豊富でおいしく、名水として知られているものもいくつか有しておりますが、中でも環境庁選定全国名水百選にも選ばれた「穴の谷霊水」では、連日、全国から病気平癒を願い、霊水を汲みに訪れる方々の長蛇の列が絶えないところです。また、平成10年には町が温泉を掘削し、「アルプスの湯」として開館しました。町内はもちろんのこと、県内外の方々が多く訪れ、汗やストレスを流し、疲れを癒す憩いの場として来館いただいているところであり、ここにも水の恵みがもたらす大きな効果が現れています。
観光地として代表的なのは、「剱岳」の登山口として有名な馬場島です。馬場島は、中部山岳国立公園の中にあり、小上高地と称されるほど四季折々に美しい自然の表情を見せてくれます。野営場などの施設を有しており、夏にはキャンプをする人々で賑います。また、平成16年には山小屋「馬場島荘」を全面改築し、登山客だけでなく、一般の方々にも気軽に利用することができるよう整備したところです。
富山県は、3,000メートル級の山々が連なり、この壮大な風景が人々を魅了するところでありますが、この「剱岳」を含む立山連峰にあっては、古くから山岳信仰が盛んであったといわれており、その名残である遺跡も発見されています。 
その流れをくむように、町内には、約1200年前に高僧行基によって開かれた真言密教の大本山・大岩山日石寺と600年近い歴史を持つ曹洞宗眼目山立山寺という二つの古い名刹を有しています。
大岩山日石寺は、一枚岩に彫られた不動明王の磨崖仏が有名で、国の重要文化財に指定されています。また、六本滝といわれる竜神の口から流れ落ちる滝では冬に寒修行が行われ、季節の風物詩として知られています。眼目山立山寺の参道は樹齢約400年の大木が連なる「とが並木」となっており、境内では、静粛な雰囲気の中、座禅を組む研修がよく行われています。 
産業としては、古くから「市」が開かれ、周辺地域の物資流通の中心地として栄えたことから、商業のまちとして発展してまいりました。また、北西部の平野地域は水と緑に恵まれた稲作地帯となっており、秋には黄金色の稲穂が輝きます。さらに近年は、企業誘致にも力を入れていることから、当町の古くからの地場産業である繊維産業に加え、医薬品、精密機械等の製造業を中心とする工業の発展がみられるところであり、これら農・商・工が絶妙に調和した田園工業都市を形成しています。
当町は、平成の市町村合併を行わずに単独町政を選択するなど、今まさに歴史における重要な「時代(とき)」を歩んでおりますが、その行政運営においては、「剱を仰ぐきらめきのまち~存在感あふれる上市町~」を現在の総合計画における基本理念とし、「さわやか」、「はつらつ」、「ぬくもり」、「うるおい」、「のびやか」、「いきいき」の6つのキーワードを施策の大綱として掲げ、各種事業等に全力で取り組んでいるところです。
現在推し進めている主要施策としては、平成15年に上市町役場として取得したISO14001をはじめとした循環型社会構築のための諸事業(「さわやか」)、グリーンツーリズム事業の展開(現在二団体がグリーンツーリズム推進協議会を設立し、棚田のオーナー制度、炭焼や地元農産物を使った調理体験や周辺里山・史跡等の散策といった都市との交流を推進。(「はつらつ」))、自主防災組織への支援等防災対策の充実(「うるおい」)、「ゆっくり・ゆったり・豊かな心」を基調とした、スローライフ(「のびやか」)な生涯学習活動の推進等が挙げられるところです。 
また、長期的なものとして、現在日本で唯一、隣接都道府県との直結道路を有しない富山県と長野県とを北アルプスの真下を貫通するトンネルで結ぶ「アルプス縦貫トンネル」の実現を大きなプロジェクト構想として掲げています。
なお、本年度は、町のシンボル「剱岳」の測量100年目に当たる年ということもあり、7月に講演会等の開催を予定しているところです。偶然にも本年、映画監督の木村大作氏が故新田次郎先生の「劒岳〈点の記〉」を原作とした映画の製作にとりかかるとのことです。平成21年公開予定と伺っておりますので、この作品の完成を楽しみにしております。皆様方にも是非一度「剱岳」の雄姿を見ていただきたいと思います。