徳島県石井町長 坂東 忠之
住民が行政の仕事に求めるのは、「やるか」「やらないか」二者択一の答えなのです。
「やれるか」「やれないか」はあまり考えてはもらえません。そして行政はいつも、『やらないことへの不満』と『やったことへの苦情』に悩まされているのです。これから書くこともそんな悩みのひとつですが、田舎の町長の愚痴と思ってお付き合いください。
「健康は大切なもの」、「健康は何ものにも勝る宝物だ」とひとは良く言います。もちろんそれはその通りで、これに異を唱えるつもりは毛頭ありません。しかし、皆さんは本当にそう思っているのかと疑問に思うことがあります。
我が町では、今年住民の健康診断の受診率が大きく低下しました。思い当たる理由は一つです。それは、昨年まで無料であった受診料が、今年からは一部自己負担になったということです。ある程度のマイナスポイントは、予算査定の段階で予想しておりましたが、それが思いの外大きかったものですから、「わずかな予算を惜しんで何事か、住民の健康を軽んじることは許されない。行政の使命を果たしていない。」と議会からも強く叱責されました。もとより、町も私も住民の健康を軽んじるなどと言うことは断じてありません。だからこそ、苦しい台所事情をやりくり算段しながらも無料検診を続けてきたのですから。
でも、そこでいつもの疑問に突きあたるのです。言われるように、健康が何ものにも勝る大切な宝物であるならば、健康診断は何事よりも優先し、受診されなければならないものであるはずです。しかしここにあるのは「ただなら受診しよう」「わずかでも負担がいるなら、もういいや」という現実なのです。
さて、行政はこのギャップにどう対処すれば良いのでしょうか。費用丸抱えで、「さあ、検診に行きましょう」と住民の背中を押し、腕を引っぱっても受診実績を上げなければいけないのでしょうか。本来、「健康管理」は個人的な問題だと私は思うのですが。
検診に行きたくても町に医者も病院も無いと言うことならばそれは行政が解決すべき問題です。しかし、約5キロメートル四方の面積の中に、20箇所の医療機関が存在する我が町です。受診料が自己負担になったと言ってもその費用の殆どは公費で負担しています。健康教室や健康相談などの健康事業にも力を入れて取り組んでいるのです。それでも受診率が下がるのは、行政の努力不足と言うことになるのでしょうか。
こんなジレンマを繰り返す毎日ですが、私は住民の皆さんが健康であり、町が元気であることを誰よりも願っているのです。
健康に対する私の持論は「やる気、根気、元気の3つの気力を持て」ということです。人間やる気がなければ何もできないし、何も始まりません。何かを始めなければ変化も進歩も成長もありません。目標を持つこと、即ち「やる気」を起こすことは物事の第1歩なのです。目標を持って、何かを始めたとしても三日坊主では何にも達成することはできません。目標に向かってこつこつと努力することが必要です。これが「根気」です。そして、目標を持って根気強く頑張れる人であっても心身が健康でなければやり通すことはできません。大切なのは「健康」即ち「元気」なのです。
市町村合併が進み町村が減少する中で、自立の道を目ざす我が町にとって、住民や職員の元気は何ものにも代え難い原動力となるものです。
地方に向かっては、強い逆風が吹いて来ますが、町中の元気を集めて、この町の存在感を示して行きたいたいと念じております。