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 町はまるごと博物館 町民みんなが学芸員

印刷用ページを表示する 掲載日:2004年10月25日

町はまるごと博物館 町民みんなが学芸員

山形県朝日町長  清野 隆

  
朝日町は、山形県のほぼ中央部に位置しており、磐梯朝日国立公園のふところに抱かれた自然豊かな農山村です。町の中心を最上川が南北に流れ、両岸の河岸段丘には100年以上の歴史を持つ名産の「りんご」をはじめ、果樹栽培に適した肥沃な大地が広がっています。

町の面積は196.73平方kmで、人口は約9,000人。産業は、りんごを主体とした果樹栽培を基幹産業として位置づけ、「無袋ぶじ」を柱に生産性向上に取り組み、全国で最も優秀な品質のりんご生産地としての地位を確立しました。

ぶどうは、生食用のほかワイン需用の高まりにあわせて、ローカル色豊かな「朝日町ワイン」醸造、販売し、好評を得るようになりました。本年の2004国産ワインコンクールで銅賞を受賞するなど、「りんごとワインの里」として名声を高めています。

●自然との共生めざす

平成元年には自然を生かした観光産業にも取り組み、スキー場やコテージ、ホテルなどを備えた家族旅行村「朝日自然観」をオープン、世界に類例のない自然と空気に感謝する「空気神社」の建立や、環境と清流を守る合併処理浄化槽の普及運動など、自然との共生をテーマにした町づくりに取り組みました。

この流れは、平成2年「地球にやさしい町宣言」、翌年度は「空気の日」条例制定へと発展。第3次総合開発基本構想に「楽しい生活環境観・エコミュージアムのまち」を基本理念として盛り込み、住民自身が町の自然や文化、産業の良さを見直し、誇りを持って魅力あるまちづくりをめざす取り組みをはじめました。

「エコミュージアム」とは、エコロジーとミュージアムが結びついた造語で、1960年代にフランスで提唱された新しいスタイルの博物館です。地域そのものが展示室で、地域の生活や自然、産業、歴史文化などを展示品として展示、保存、育成し、地域の発展に役立てることを基本としたものです。住民自身が、町の宝である自然や歴史文化を再認識し魅力を高めながら、都会にはないわが町特有の生活を楽しむ取り組みであり、第4次総合発展計画でも「自然と人間が共生し、しっかりした暮らしを築くエコミュージアムのまち」を掲げ、存在感のあるにっぽんの新しいふるさととして発展させていくことをめざしています。

●NPOが活動をリード

平成12年には、活動の拠点となるエコミュージアムコアセンター「創遊館」が完成。ホール、図書館などのほか普及、研究、案内などを総合的に行うエコミュージアムルームを設け、運営をNPO法人朝日町エコミュージアム協会に委託するなど、住民と行政が知恵を出し合って活動を展開しています。

今年の夏も、朝日町への体験ツアー「エコミュージアム紀行」に、早稲田大学の留学生一行20人が来町しました。3年目の今年は、NPOをはじめ町民ボランティア「案内人の会」のガイドで、大小の島々が浮遊する名勝「大沼浮島」や、1400年余の歴史をもつ浮島稲荷神社、七不思議の里「八ツ沼」、空気神社などサテライトを巡り、ホームステイしながら清流での川遊び、浮島雅楽鑑賞など田舎の夏を堪能しました。

また、お寺でまるごと体験する寺子屋事業や、水田を潤す堰の歴史、役割などを学ぶ水と暮らしの探検隊など、小中学生に地域の宝、良さを見直してもらう事業も、NPOや町民学芸員の協力を得ながら継続しています。

●住民との協働で

こうした取り組みは、従来から力を入れてきた住民参画型まちづくりの一端であり、まさに住民との協働そのものであると確信しています。全国に先駆けた「エコミュージアム」についても、若者定住策を模索していた時期に、住民主体のエコミュージアム研究会が先導的役割を担って生まれたまちづくり運動であり、計画策定の段階から住民と行政が知恵を出し合い、試行錯誤しながら着実に育ててきた取り組みでもあります。

町誕生50周年を迎えた今日、わが町も人口減少や少子高齢化、産業の活性化など多くの課題を抱えています。しかしこれまで積み重ねてきた住民と行政による協働のまちづくりの継続によって、こうしたハードルは必ず克服できるものと確信しています。