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 中央アルプス山ろくの村づくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2004年5月10日

中央アルプス山ろくの村づくり

長野県宮田村長 矢田 義太郎


宮田村は「桑の中から小唄がもれる小唄聞きたや顔みたや」と伊那節に唄われているように以前は有数の養蚕地帯でありました。宮田村は伊那谷のほぼ中央に位置し、東に南アルプス・西に中央アルプス、その間を流れる天竜川と自然豊かな環境に恵まれております。
 
中央アルプスの主峰駒ヶ岳(2,956メートル・町村週報2479号表紙)は村の地籍にそびえ立っており、夏のシーズンには東洋一と云われるロープウエイを利用して多くの観光客・登山者でにぎわいを見せています。この駒ヶ岳は地元では岳と呼ばれ、親しまれておりますが、昔から里の人びとは毎日駒ヶ岳をながめ岳にあらわれる雲の現象で天気を占ったり、春から夏にかけて残雪の消えていく姿をいろいろな雪形にみたてて種まき爺・島田娘と云って、太陰暦の日付が地球の運行と一致しない時代に種まきの目安にしたのも生活の知恵だったと思います。その代表的な雪形島田娘(雪が解けて浮かび上がった黒い山肌が島田まげを結った女性の左横顔に似ている)が例年ですと4月中旬に山腹に姿を表し、昔の人たちはそれによって苗代を作って水稲の種まきをしたと云われておりますが、今年2ヶ月も早く2月の下旬にお目見えし話題になりました。今年は中央アルプスも例年になく降雪量が少ないための現象であり、夏の水不足も心配するところであります。

さて、宮田村は現在9,200人、将来は1万人を目標にして農工商バランスのとれた村づくりに取り組んでおり、平成10年からは山ぶどう栽培と山ぶどうワインの特産品づくりに取り組んでおります。地域の特産品を作るには風俗文化の歴史、また、自然環境の中から新しいものを創造することが大切であります。山ぶどうは現在では希少価値の存在になっておりますが、古くから中央アルプス山ろくに自生し、山の果実として自然の恵みをもたらしてきましたので自然資源と風俗文化の両方の関わりから山ぶどうに着目しました。

食の文化は原料を作る人・加工する人・消費する人のそれぞれの顔や姿が見え、信頼が築かれる中でつくられていくものであり、中央アルプス駒ヶ岳山ろくの地の利を生かして、山ぶどうの生産・加工・販売・消費の地元での一貫性をめざす山ぶどうの里づくり構想に取り組みました。現在生産組合によって3ヘクタール・3,000本の山ぶどうの植え付けが終わり最盛期にはワイン6万本を予定しております。品種は、山梨大学の山川先生によって改良された「ヤマ・ ソービニヨン」と云う品種で、これは母親が 「山ぶどう」、父親が「カベルネ・ソービニヨン」(フランスボルドーワインの主要品種)で、試験栽培の結果宮田村の土壌・雨量・気候等に適していることがわかりました。

また、農業従事者の高齢化が問題になっておりますが、山ぶどうの栽培は垣根栽培の方法で平地で作業が出来、収穫も腰の高さで行えますので高齢者でも作業が出来ます。なお、幸いにも村内に鹿児島に本社のある酒造会社の工場があり、現在アルプスの水を使ってウイスキーや地ビールを醸造しておりますので、醸造技術との連携によって事業が順調に展開しております。

数年前赤ワインは食生活や飲酒スタイルの変化によることと動脈硬化を防止する等の効能が見直され、健康志向にマッチし、ヘルシーな飲み物として人気が出て、貴重な自然食品として珍重され第5次ワインブームを生みました。しかし、現在は、ブームも沈静化し輸入ワインや国産ワインの低価格の競争で厳しい環境にありますが、中央アルプス山ろくの恵まれた気候・風土の中で生まれ育った山ぶどうワインを多くのみなさんに愛飲していただけるよう頑張っております。