高知県町村会長
吾川村長 藤崎 富士登
高知県の中央部を縦断する仁淀川は、その源を石鎚山(1,982メートル)に発し、延長124キロメートル、その水質は日本最後の清流と言われる四万十川よりも優れ、急流のため上・中流は面河渓谷等奇岩奇石。四季の色彩に富んだ清流である。吾川村はその中流部に位置し、愛媛県と県境を接する。四国山脈の高峰の一つ、明神山(1,541メートル)を背景に水と緑の大自然の村である。
村のシンボル、ひょうたん桜は、国道33号(高知市より45キロメートル)より約3キロメートル山の中腹にある。学名はウバヒガン、蕾が瓢箪に似ているところから、地元ではずっとこの名で親しまれている。県の天然記念物に指定され、樹齢500年、根回り8メートル、樹高30メートル、枝下面積300平方メートル、枝が四方に拡がっていたが、平成4年、この地を襲った台風により、直径60余りの大枝を無惨に折ってしまったが、その後、若枝が力強い生命力を見せている。花は、小輪一重の淡桃色、下方から咲き始め上部へ4、5日かけ咲く古木だけに、長い年月を風雪に耐えてきた神秘的な風格がある。
十数年前、全国ネットで放送されて以来、全国から桜見物の車が一日千台を越し、狭い山道へ押し寄せるため、村では駐車場の整備や、道路の整備を行っているものの、対応に追いつかないのが現状である。この時期、20戸足らずのこの集落は俄然活気づく。眺望が良く、三方千メートル級の四国の連山を見ることができる。桜は期間が短い。少しでも訪れた人達に楽しんでもらうために、周辺一帯にシバザクラ(1ヘクタール)を植え、シバザクラの名所としても知られてきた。
吾川村は83パーセントが山林である。しかし、林業は一町村で解決できる課題ではない。生産から加工、販売まで、川上から川下までの対策を仁淀川流域の広域で取り組んでいる。
吾川村には茶以外、これといった特産物はない。地域の活性化を図っていくためには、その地域の特性を生かしながら交流人口を増し、色々な体験を通じ、森の大切さや森の素晴らしさをアピールし、活性化を図っていこうと考えている。
森をキーワードに、「桜の森」「風の森」「神の森」「水の森」「湯の森」「学びの森」の森構想である。「桜の森」は前述した様に、駐車場の整備が終われば一段落する。あとは地域の人がどう活かしていくかだ。
平成3年、村は明神山に吾川スカイパークを開設した。この辺り一帯は昔から上昇気流の吹く事で知られている、いわゆる風の森である。明神山頂からパラグライダーでスカイパークへ飛来する。プロ向きのエリアだと言われる。
「神の森」は菜野川神社の伝承郷土芸能数百年の歴史を持つ、国の無形文化財・名野川磐門神楽、「水の森」は、県立自然公園・中津渓谷。平成9年、村はそれぞれの森の拠点として、この中津渓谷の入り口に温泉宿泊施設「ゆの森」を建設した。村内産の木材を使い、木の香匂うコテージ、地元の食材を使ったカジュアルな洋風料理のレストラン、木風呂の露天風呂は予想を越える客足である。
そして、現在村が最も力を注いでいるのが、明神山につながる長坂山一帯を、生きた教育の場にしようとの「学びの森」構想。これは森の形を風景画の様にデザインし、その為に必要な調査に参加して楽しみながら、森との関係を学ぼうとするものである。長坂山に自生する、絶滅危惧種に区分されているクマガイソウを始め、ヤマトグサやワタナベ草など、貴重な山野草の保護にも取り組んでいる。
吾川村が抱える課題は、どこの村にも共通する少子高齢化。環境問題や心のケアが叫ばれる現在、我々の村の宝でもある「森」というものを新たに捉え直し、都会の人々との交流の場を創出していきたい。それによる活力を得ながら、地の利と自然を上手に活かした農業や産業の育成を図り、若者の定住を促したい。ひょうたん桜や、天から授かった「森」という古来の財産を、これからの時代に向けた新しい方向に活かしていきたい。