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 趣味と三平の里

印刷用ページを表示する 掲載日:2003年11月3日

秋田県町村会長
増田町長
 石山 米男

15世紀のイギリスでは、ゴルフ狂が増え武者修行がおろそかになるとの理由で、ゴルフ禁止令が出されたという。日本のゴルフは、日露戦争の前年神戸の六甲山頂で第一球が飛んだとのことである。戦時中のゴルファー達は、「非国民」といわれながらも、唐草模様の風呂敷に道具を包んで通ったというから、その執念たるや壮烈というほかはない。ことほどさようにゴルフは不治の病といって過言ではない。
私も数年前大病を患って危殆に瀕する状態となったが、幸い大事に至らず、すぐに健康を回復。今に至っては前にも増して頗る快調である。それまでは病気とは無縁で、身体には絶対的な自信を持ち、若いときから暴虎馮河の勇をもって駆けずり回ってきたが、病気をして初めて健康のありがたさを痛感、日頃の運動不足を補うため始めたのがゴルフ。白球が青空の下、弧を描き緑に吸い込まれていく爽快さに夢中になり、以来球の行方に一喜一憂を繰り返してきたが、あるとき、「勝負というのは全勝で乗り切るなんてものでなく、15戦して8勝7敗か、9勝6敗ぐらいが良いのではないか」と作家の阿佐田氏が述べているのを思い出し、健康のためやっているのだからと言い聞かせ、常に大らかな気持ちで臨み、楽しく愉快にプレーすることを心している現在である。以来、一向に上達はしないが、趣味はと問われれば、即座に「ゴルフ」と答えている。ゴルフ場は自然の織り成す美と、芝生の緑の美が絶妙なバランスで構成されており、成績を別にすれば、こうしたゴルフ場に臨むと気分がすっきりとする。最高の気分転換である。
「人間が森から歩みでたものだとすると、川づたいに下流に向かい、群れて都市をつくった。下流は人で溢れ、権力、財力など全てが集中する。豊かさのためのツケを、上流に押し付けている。上流には、かつて地球と向かい合う哲学があった。下流はそれを無視するようになり、怪物になった。」これは大都市への一極集中に警鐘を鳴らした脚本家倉本聡氏の一文である。雄物川の上流つまり私どもの山間部は、自然豊かであるが、奥羽山脈西麓に位置しているため、冬期2~3メートルほどの積雪に難儀を強いられている。
この地域は、「釣りキチ三平」の作者で漫画家の矢口高雄先生の出身地でもある。「ボクのふるさとは奥羽山脈の山襞の中の寒村」と作品で表現されている。先生は「人、自然、ふるさと」に特別なこだわりを持ち、こうしたものに対する温かいまなざし、子供の頃への郷愁などをモチーフとして活躍を続けている。IT時代となった今、麦わら帽子に藁草履姿で、釣りに熱中する三平君が平成版として復活、「日本人は、かつて自然の中で、たおやかな時の流れに身をゆだねて生活していた。そんな時代があったことを伝えたい。」と話されている。
こうした山間地の活性化を図る意味で、この地でなければ味わうことのできないものは、と考えついたのが、東北地方では珍しい、ナマズの養殖である。平成9年度から内水面魚養殖事業として、食用ナマズの試験研究を重ね、この春生産施設を完成させ、本格的に養殖に乗リ出したところである。ナマズは味が淡白で、食感がフグに似ている。「山フグ料理」という名で、刺身、天ぷら、マリネ、蒲焼などにして出したとこころ、たちまち人気料理になったもので、町の特産品として大きな期待を寄せているところである。
また、町の転作田に作付けしたそばを活用した「三平そば」、玄そばの挽きたて、打ちたて、茹でたての「そばの三だて」を基本とし、手打ち独特の風味と、腰の強さで大変好評を博している、地元の母さん方による典型的な田舎そばである。こうした特産品開発と、「釣りキチ三平の里」整備構想を推進することにより、地域のコミュニティの活性化を図ると共に、山間地の集落の再生を目指しており、地域の方々が中山間地域を魅力ある地域と自信を持って、自己表現できるよう、今後も事業展開してまいりたいものと考えている。