ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > 町村長随想 >  秋吉台に思う

 秋吉台に思う

印刷用ページを表示する 掲載日:2003年7月28日更新

山口県秋芳町長  上利 禮昭

秋吉台の山焼きには毎年苦労しています。今年も予定した期日を6回延期して、3月11日にようやく終る事が出来ました。関係者の皆さんに大変ご苦労をおかけしました。心から感謝しております。
秋吉台の山焼きはお隣の美東町さんと一緒に台上約1,500ヘクタールを関係者約1,200人を出動していただき、毎年2月の第3日曜(今年は2月16日)を予定日として実施してきましたが、今年は前述のように6回延期してようやく山焼き行事が終わりました。これは、過去の延期記録をひもといてみますと記録に残っているものとしては、6回は過去に1回あるだけでタイ記録でした。今年実施した日も朝は粉雪が降りあやうく新記録になるところでした。山焼き可否の決定は午前6時に関係者が台上に集まり、秋吉台の山焼きをやるかやらないかを決めるわけです。 私は天気予報等からもう1日延期した方がよいのではないかと思いましたが、皆さんがこれ以上延ばす事は難しいと云う事で意見が一致したので決行することになりました。実施すると云う事になれば交通指導の警察官、防火要員の消防署員・消防団員約200人、地元関係者約800人の大動員となります。午前9時30分より点火する事になっておりましたが、先日来の天候不順で火がつきません。ようやく午前11時頃より燃え出し、午後3時頃までに完了し、今年もこれで延期の新記録をつくらずに山焼きも終わったと安心しました。秋吉台の山焼きは毎年予定した期日に決行出来ない事が多く、予定日に実施できるのは5年に1回ぐらいで毎年延期されております。
秋吉台の景観は、人が手を加える事でこのすばらしい景観が護られております。とかく自然を保護すると云うと、人や車を近づけずに現状を護ると云うふうにとらえられておりますが、秋吉台の場合人が手を加え景観を護らなくてはなりません。即ち山を焼くことによって草原が維持され景観が護られております。近代は農耕が時代とともに変わり、肥料としての草、牛馬の飼料として草をあまり必要としなくなり、この頃は採草でなく草原を維持する事から山焼きを行わなくてはならなくなりました。又、この山に火を入れる為には他の森林に火が入らないように防火帯をつくらなくてはなりません。これが又一大事業で従事する人が高齢化して防火帯づくりが難渋しており、最近では牛を放牧して牛が草を食べる事によって防火帯が出来上がるようになりましたが、まだまだ実験段階ではありますが今まであらゆるもので防火帯の実験を行ったものの中では、確実に効果があるようでありますので、今後牛を放牧した防火帯作りは期待がもてると思っております。
秋吉台の山焼きはいつの頃から始まったか詳びらかではありませんが、昔から良質の草を収穫し、山火事を防止すると云う先人の皆さんの知恵から出たものと思います。昔は原始的な焼き畑として台上の窪畑耕作と草刈り場として営まれてきたといわれております。これがはっきりと文献に見えるのは山口県の旧藩時代の「風土注進案」で秋吉村の條に「草刈場は遠村よりも人来り、山奥は諸村入相の刈場」であると記述があります。従って秋吉台の山焼きは良質の草を求めると云う事で既にその当時から山焼きは行なわれていたものと考えられます。
私も秋吉台の山麓で生まれ育った関係から秋吉台の草は、昔は生活の中に加えられ農耕上必要なものでありました。当時の農家の男子は朝食前に草を一荷(約30kg)刈らなくては朝食にはならなかった。夏の天気のよい日は刈干と云って朝弁当を持って午前中草刈りをして、それを天日で乾燥させて夕方馬に片側3束合計して6束を束ねて多量の草を刈りとって帰って来て、それを冬の草の無い季節の飼料として蓄えて牛馬を飼育していました。牛馬は農耕には欠くことの出来ないものであったものが、耕耘機の導入により不用となり良質の草も必要としなくなった。しかし、秋吉台の景観を護るためには山焼きを行なわなくてはならない。これを自然のまま放置すれば手のつけられない雑草地になると考えられます。
近年からこの山焼きが観光の面からもクローズアップされるようになり、毎年山焼きの参観に多くの人々が集まって下さるようになり、秋吉台の一大イベントとしてマスコミの皆さんからもとりあげていただけます。本当にありがたい事と思っております。しかし、折角山焼き見物を期待して遠方よりわざわざこられたのに、その期待を裏切って山焼きを延期しなくてはならない決定をする時は本当に申し訳なく思いますが、天候に左右されるものであり、いたしかたないものと自分に云いきかせております。
又草原を護ると云う事はきわめて人手を必要としてむつかしい事であり、研究者の意見をききますと、全国ではかつて草原であり現在まで草原として存在しているのは約10分の1に減少し、今後も益々減少すると云われております。その対策として全国の草原を持つ関係者が集まり、全国野焼きサミットを立ち上げ昨年は阿蘇で開催され5回目を数えております。秋吉台でも第4回のサミットや草原シンポジウムを開催し草原の維持について話し合いました。ここで議題になるものは、農業畜産の形態が変わり草資源もさる事乍ら、景観健康、環境にもやさしくと云う事でとらえて来るようになりました。
秋吉台、秋芳洞は天然の遺産であります。私達はこれからも護り続けて次世代にそのままの姿で引き継がなくてはならないと強く自分自身に云いきかせておる昨今であります。