ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > 町村長随想 >  豊かな自然とともに

 豊かな自然とともに

印刷用ページを表示する 掲載日:2003年3月31日更新

京都府網野町長 濱岡六右衛門平

我が網野町は京都府北部の丹後半島に位置し、東経135度・日本標準時子午線が通る日本最北の町で、白砂青松の海岸線の西半分が山陰海岸国立公園、東半分が若狭湾国定公園に指定された景勝地であり、伝統に育まれた丹後ちりめんの産地として知られ、美しい海や天然温泉が自慢でございます。全国でも屈指の規模と言われております鳴き砂の琴引浜をはじめ、府内最大の淡水湖・離湖、浦島太郎や静御前の伝説、日本海側最大級の前方後円墳である銚子山古墳など、豊かな自然や史跡に恵まれ、これらを生かしながら住みよいまちづくりに取り組んでいるところであり、夏は海水浴、冬はカニ料理や温泉を目的とした多くの観光客をお迎えしております。

このほど、本町の琴引浜保護をはじめとした取り組みが評価され、平成14年度の「地域づくり総務大臣表彰」を受賞させていただきました。対象となりましたのは「住民参加のまちづくり部門」であり、今後も“美しいふるさと”を旗印に、全国へ向けて網野町の生き生きとした姿を発信してまいりたいと存じます。

この機会に、網野町の歳時記とでも申しましょうか、秋から冬、そして春への季節の移ろいについて、食を交えてご紹介したいと思います。

11月初旬には、「うらにし」と申しまして、丹後地方特有の気象がお目見えします。晩秋の頃、強い西からの風とともに天候が不安定となり、雨が降ったり、晴れたり、また降ったりを繰り返すものです。このことを表して「弁当忘れても、傘忘れるな」ということわざがありますが、昔の人は、うまいことを言ったものだと感心させられます。この「うらにし」の到来とともにカニ漁が解禁となり、海辺の地域では、市場で仲買人らの威勢のよいかけ声が飛び交い、町も大いに活気付きます。

一般に出回っているカニのうち、オスは「ズワイガニ(松葉ガニ)」で総称されますが、メスは「セイコガニ」と言い(こちらでは「コッペ」とも呼ばれていますが)、オスほど値が張らないため、もっぱら地元の家庭の食卓に上ります。私も、子供の頃など、おやつ代わりによく食べたものです。ゆでたてのものは大変味わい深く、カニはこれが1番とおっしゃる食通の方もおられます。「ズワイガニ」は言わずと知れた冬の味覚の王様であり、ゆでる他に、刺身に、鍋に、焼き物にと、様々な調理で海の幸を楽しんでいただくことができます。

やがて、雨の中に白いものが混じるようになり、冬の訪れが告げられることとなります。真珠色の空のもと、風と潮騒が協奏曲を奏で、雪が日本海の荒波の上に降りしきる風景は、なんとも美しいものです。露天の温泉で、雪見酒といきたいところです。

また、豊かな緑をなす野や山の地域は、この時期は雪の下でじっと沈黙を守り、来るべき春に備えているようです。年が明け、大寒ともなると、あたり一面の雪景色で、出ている月も凍りついて見える夜があります。そんな日は、降り積んだ雪が水晶の床のようになり、その上を歩くことができるのです。月明かりの冬木立の中、自分の靴音だけが響き、ただ空から雪が舞い降りてくるだけの静寂の世界は、厳しいながらも海に劣らない自然の醍醐味と言うことができます。この地域で味わう山の幸の代表格、味噌仕立ての牡丹鍋はまた格別でございます。

そして、カニ漁が終わり、春を呼ぶ魚、サヨリなどが姿を現わすと、あちこちで雪を割って福寿草が顔を出し、水仙や梅の便りも聞かれる頃となります。雪は、日当たりのよいところから波が引くように消えていき、雪解けの透明な水も堰を切って流れ出し、耳をすませば芽吹きの音が聞こえる気がいたします。長い冬を経て再び巡ってきた春に、自然の営みに、感謝せずにはいられません。

春一番は、漁師言葉から気象用語として広まったと聞いておりますが、冬を運び去る一陣の風を心待ちにしていた早春の頃も往き、若草の萌え立つ季節を迎え、気持ちも華やいでまいります。いよいよ桜前線も到着しそうな気配であり、4月中旬には、春爛漫の中、恒例の「ちりめん祭」が催されます。

どうぞ皆さん、網野町にお越しいただき、春から夏にかけての様子は、ご自身の目で確かめてみて下さい。