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 わが村に想いをよせて

印刷用ページを表示する 掲載日:2002年10月21日

わが村に想いをよせて

奈良県町村会長 御杖村長 田中 勝

ここは庁舎の2階である。その2階に私の執務室があり、部屋の2方はガラス張りで視界が広がっている。今まで握っていたペンを置いてその窓越しに見える国道369号線を目で追う。

小さな村中(むらなか)の山間を悠々と伸びる道の行く手の先には、青々とした大空が広がり白い雲がのんびりと流れている。雨の日は雨の日の情景で、雪の日は雪の日の情景で私の目に飛び込んでくる。想像しきれないとてつもない大きな宇宙の仕組みの中に地球がある。その地球の中の日本、その日本の中の御杖村がここにある。私のこよなく愛する農林業を中心とする村である。

この村に長年住民の悲願であった土屋原トンネルが完成した。道路事情が悪かっただけに喜びも大きい。これで村内の主要道が1本に結ばれた。

この様を天照大神鎮座の地を求めて倭姫命が旅した途中、我が村で宿をとられその候補地の1つとして持っていた杖を置いていったと言う由来から地名が「御杖(みつえ)」となったと言い伝えられているが、その倭姫命もさぞかし驚いていることだろう。また私たちの先人は目を丸くして、それとも三角にして眺めているだろうか。時間はたゆまなく刻まれ、過去から未来へとつながっている。その現在を私たちはこの世に生を受けて生きている。

山村は山村規模で発展し生活は豊かになり、その恩恵を受けながら人口2,563人(9月1日現在)の人々が個々のライフスタイルで今日の1日を過ごす。たった2,563人と言えばそれまでだが、2,563人もの人が生活する村である。山々の懐に抱かれ、木津川、淀川水系の水源地を守りながら自然と共に1人1人が精一杯自分の人生ドラマを作りながら生きている。価値観も生き方もそれぞれ違うが、舞台が御杖村であることは誰もが同じである。ほとんどの人が顔見知りで、良きにつけ、悪しきにつけ誰が何をしたとまで知り合える。

人間は土から足が離れるとダメだとも言われたりもするが、大地の上に足を踏んばって田舎暮らしをしている。明日の天気を雲の流れや風に尋ねて生きてきた昔の人達の様に、五感や体を自然にゆだねて生きる大切さもまだ忘れていない。自然と向き合い自然に教えを請い、感謝して生きる事の大切さを今さら解く必要はないが、高度成長の中で失ってきたモノの大きさに、いろんな分野から警告の鐘がカンカンと鳴らされている。地球が悲鳴を上げ、温暖化、砂漠化、さらには環境汚染、ゴミ問題、エネルギー問題等々、挙げたらきりがない程たくさんの問題が突きつけられている。

町村合併問題はさておくとして、この村の現実を乗り越えながら次世代にマイナス財産を残さない施策を・・・、時を越えて残すべきものは・・・と、知らず知らずの間に、私の手には力が入っていた。

トントントン。ドアの叩く音でふと我に返り背筋を伸ばした。書類を脇に抱え職員が入ってきた。さあ職員と粒粒辛苦を共にしてと、改めて自分につぶやき同時に村の行く末について責任の重さを感じながら席から立ち上がった。