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 地域資源を活用して

印刷用ページを表示する 掲載日:2002年3月4日

三重県勢和村長 林道郎

私ども勢和村は、三重県のほぼ中央部に位置し歴史も古く、自然、文化、豊かな農山村です。地域資源を活用して数多くのボランティアグループが自ら立上り様々な活動を展開していることに大きな誇りをもっています。

「岩1升、米1升」このことわざは村の農業用水史の建設工事にかかる困難と作業に従事した先人達の苦労を現在に伝えています。

この用水「立梅(たちばい)用水」は1823(文政6)年当時、村の地士らの尽力により完成しました。全長30㎞、山肌を縫うように走り、苦しい農民の暮らしを救ったと言われています。

以来、今日まで約180年にわたり農業用水としてまた、防火や生活用水など地域用水としての役割も果たしてきました。

近年農業の近代化に伴い、全線恒久施設となり、維持管理の軽減や用水の有効利用が図られました。歴史的な水路だけに、途中の素掘りのトンネルや切り通しと呼ばれる部分には「岩1升、米1升」のことわざが偲ばれる先人の振った「ノミ」の跡が残されています。ところが水路の近代化が終る頃、若者達から、どこで水を取り、どのように流れているかわからない、こんな声が上りました。

用水にかける労力は大きく軽減されましたが、代って農家と用水の絆は薄れ、資本を投じた近代化は、便利さと引替えに用水難れと言うジレンマを引起す結果となりました。

しかしこのことが1つの転機となり、用水への関心を取り戻そうとの保全意識が高まり、地域住民自ら立上ったのが「ふるさと水と土保全活動」です。

平成5年、ボランティアによって用水沿いや農地の周辺にあじさいを植える運動が始まりました。これは特色ある農村景観を創り出し、用水への関心をも高めようとする願いがありました。

あるグループは、劇を通じ用水建設にかかる苦労の史実を演じ多くの人々に感動を与え、また、あるグループは、荒れた休耕田を活用してメダカやホテイアオイを育て「農村のビオトープ」づくりを始め、子供達の情操教育の場として活用をすすめました。

一方、直接用水を管理する土地改良区では定款に「ふるさと水と土保全活動」を明記し、受益農家だけでなく一般地域住民と協働し、子供達を対象に地域の学習会活動を始めました。

驚くべきことに、保全を目的とした多種多様なボランティア活動はやがて大きな村づくり活動へと発展してまいりました。

6月に開催する「あじさいまつり」では保全活動を通じた多くのボランティアグループが集い、用水や周辺農地を最大限に活用しつつ都市と農村の交流をも図るという特色あるイベントを作り上げ、予想以上の来訪者で賑わい、また新たな土地改良区の取り組みや地域住民による村づくりは全国から関心を集め、県内外から大勢の視察を頂く程になりました。

平成9年一連の活動が「豊かなむらづくり」農林水産大臣賞を受賞、住民が主体的に協働活動に取り組んだ大きな成果でもありました。これ以来、活動意識の中で私達の地域にある身近な「水や土」は、最も大切な「地域資源」であり、それを最大限に活用して行くことの大切さを多くの人々が学び感じとったと思います。

今、村では地域住民、行政、土地改良区が協働し様々な活動を展開しておりますが、最も身近で最も大切な「地域資源」これを多面的に活用できること、大変幸せなことであります。

改めて「岩1升、米1升」のことわざに正面から向かい合い、感謝の念と活動を通し、水や土の大切さを将来に伝えて行く、このことが私達の使命であり、最も価値あることと考えています。