愛知県津具村長 加藤和年
津具村は、長野県に境を接する周囲を1,000メートル級の山々に囲まれた高原の村である。山々は、戦後植林されたスギ、ヒノキを中心とした人口針葉樹林が全体の90%近くある。
高度経済成長期までは、林業が産業の中心であったため、このように人口林率が高くなることは当然の結果である。現在では、木材需要の低迷から林業は衰退してしまったが、変わって人々は自然に囲まれた保養の場、水を涵養する場としての機能を山に望むようになってきた。
また、近年の全国的な環境保全意識の高まりから、「源流からの水はきれいなまま下流に流していきたい。」という村民意識も強まってきた。特に津具村は、天竜川、豊川、矢作川の三大河川に流れ込む源流を抱えている。このような状況の下、観光客が残すゴミや生活廃水で汚れつつある河川を何とか守ろうと、自発的に清掃奉仕をするという環境美化運動が始まった。
村としても、この運動の一環として、平成7年、桜の苗木を各家庭に配付し、植栽を呼びかけた。この中で、一部河川沿いに植栽されたものがあったが、河川占用許可の問題からこれを移植せざるを得ないという出来事があった。ところが、その話しの中で、村の中心を縦断する大入川の河川敷を公園化すれば、占用許可が下りるかもしれないという話しが持ち上がった。
おりしも、村では、公共施設の集約化を目指す「シンボルゾーン整備事業」の開始直後であり、その裏山となる丸山の公園化計画が始まったときでもあった。このため、これら公園化計画をより発展した形で、「全村公園化│恵まれた自然を活かした村づくり」という構想が浮かんだのである。
この最初の試みとして、平成8年、前述の大入川河川敷への植栽を行った。参加者を募集したところ、小学生から老人まで、約300人が集まり、ツツジ、カエデ、サクラ、サツキ等2,000本余を植栽した。その後、2年間この植栽を継続し、最初に植えたサクラ等は、かなりの花をつけるまでに成長した。地域住民のボランティアで河川敷の草刈等、大切に花木を育てていただいているおかげであり、ただただ感謝という気持ちで一杯である。
ところで、私が就任以来毎年欠かさず続けていることがある。村民と直に接し、腹を割って話し合うための地区別座談会である。この席上で、河川浄化の根本は生活廃水処理にあり、いわゆる下水道整備の必要性を強く要望された。
さっそくこの事業について検討を始めた。幸いにして本村は、他の山間町村に見られるような集落の点在はなく、盆地の中に集落が固まっている。このため、処理場の建設については、全村まとめて1ヶ所で対応できるということになった。しかし、中には立地条件からどうしても集合処理区域に入れることができない家も数軒あった。これは担当の知恵により、合併処理浄化槽で対処するということで、全村下水道処理計画が始まった訳である。
いま、下流域では、水源林の大切さを再認識し、山間町村との連携について、いろいろな提案がなされている。津具村としては、全村公園化、全村下水道化、この2本立てにより、水源地としての責任を果たしたいと思っている。加えて、下流域の皆さんに「きれいな水」と「心安らぐ自然の場」を提供していきたいと考えている。