石川県宇ノ気町長 宮本一雄
第7回国民文化祭、石川シンポジウム「21世紀を生きる」が当町で開催されてから早くも8年が経過しました。近年、目覚ましい発展をした私たちの社会にあって、物が豊かになった反面心の弱さと貧しさ、環境破壊などが大きな問題となっております。
21世紀、私たちは何を求めて生きるのか。心の豊かさを志向する生き方が模索されております。
平成4年11月1日、今は亡きノーベル賞受賞の福井謙一博士、そして今日でも素晴らしい生き方や高い見識をもって歩んでおられる安藤忠雄、松野宗純、養老孟司、真野響子の四名の方々、更には世界各国から創造性にあふれる若い方々をお迎えし、21世紀の人間の生き方について「自然」「環境」「平和」「宗教心」に焦点をあて、提言や討論を頂き大変意義深いシンポジウムであったと思います。
基調講演は「科学文明と人間」というテーマで福井謙一博士がされ、深い感銘を受けました。先生は、この20世紀は非常に偶然ではあるが科学の上で大変大きな変化がもたらされた。
量子論がマックスブランクによって発見され、その後すぐアインシュタインによって特殊相対論、一般相対論が発見され、その後の物質文明、科学文明の基礎になったものである。
又、20世紀中頃に生命の原理とも云うべき大発見がなされた。このことは自然の奥深く潜んでいるいろんな性質、その奥深さを次から次へと明るみに出す基になったと講演されました。先生は余談として当町に関係深い1つの挿話を紹介されました。
大正11年にアインシュタイン博士が日本に来られましたが、これは当時大変大きな出来事であった様です。アインシュタインを日本へ呼ぶに当って宇ノ気町出身の西田幾多郎先生が大きな係わりをもっておられたのです。改造社の山本社長にアインシュタインを紹聘するよう進言し、アインシュタインの来日が実現したのです。
40日ばかり滞在され、その間各地の大学で講演されたが、西田先生は講演会場へ足を運ばれませんでした。そこで誰かが西田先生に「ちょっと講演を聞きに来てください」と言いましたら、先生は「あんな講演本に書いてあることばかり云うに決まっている。そんなもの聞いても何にもならない」とおっしゃったというのです。
ところがこの事がアインシュタインの耳に入ったらしく、京都大学での講演会では西田先生の「いかにして相対性理論を作り上げられたかという経過を聞きたい」という希望を取り入れ「いかにして私は相対性理論を創ったか」と云う演題で講演されたそうです。
さて、明治・大正・昭和の激動期を哲学者として生き抜いた西田先生だが、今日の繁栄の中で人間社会を取り巻く環境などの諸問題に対して、どのように対応すべきか先生の哲学・思想から学び取りたいものである。近年、欧米では西田哲学が高く評価され、研究されていると耳にするが、既に80年前に先生はアインシュタインの考えに哲学的可能性を見、環境と科学、そして人間の三者にとって真に調和のとれた世界を模索していたように思えます。
20世紀は技術革新によって科学文明が進歩発達し、豊かさ、そして知の探求が無条件になされてきたが、21世紀は技術文明を浄化し、自然との共生を図らねばならないと思います。