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 川と行政

印刷用ページを表示する 掲載日:2000年5月15日

島根県大和村長 黒川益之助

私の村の真中を、「中国太郎」と呼ばれる江(ごう)の川(かわ)(一級河川)が流れている。本流には珍しい鮎漁の「簗(やな)」があり、支流には日本でも貴重な生物である「オオサンショウウオ」が生息している。また、度重なる洪水から家屋を守る安全地帯ができ、そしてダム湖でのスポーツや、魚つり大会、また、のんびりと遊覧船で四季を楽しむなど、川は住民生活に大きな影響を与えるところから、行政施策についても、川を中心に考えざるをえない状況にある。

この江の川沿いにある私の村は、隣県の広島市から約100キロ、島根県庁所在地の松江市から87キロの地に位置し、中国山脈のど真中にある中山間地の人口2,174人の山村である。

水量豊かなゆったりとした流れの平素の江の川は、風光明媚と褒められているが、1度増水すると手に負えない暴れん坊となる。このような川を、地域の実態に応じ、その特長を有効に利用することによって、その地域の振興に無限に夢をあたえてくれるのではなかろうかと考える。

この川沿いにある高校の校歌に「山陰一の江の川、山陽遠く芸洲(広島)の、山より出でて50余里(200キロ)、日夜をわかず流れ行く」とあるように、静かな流域は古来から長い歴史の中に息づいてきた。その長い歴史の中で、江の川の暴れぶりを振り返って見ると、昭和18年の洪水をはじめ、20年、33年、40年、特に47年の大洪水(100年に1度の大洪水と言われている)や、58年とほぼ10年毎におきた洪水は、その度毎に50億円・100億円と改良を含んだ多額の災害復旧事業や、流域の治水対策事業を実施し、さらに住宅環境整備や、防護対策等、多くの対策を講じてきた。一方、それらの公共の災害復旧事業のために、多くの住民の方々の働く場所もでき、安全な住宅地嵩上げの団地もできて、思いもよらない安全で文化的な生活環境が整ってきた。次いで、水辺を利用したイベントも川沿いでかなり開催されるようになった。

これらについての流域市町村の取り組み状況は、江津市の「江の川祭り」、桜江町の「えんこう(河童)祭り」、川本町の「アドベンチャーレース(仮装などを競う筏の競漕)」、支流の瑞穂町の「かっぱ駅伝(川の中を走る駅伝競走)」、邑智町のカヌー博物館周辺での「カヌーフェステバル」「カヌーツーリング駅伝」、羽須美村の「蛍祭り」と「鮎のつかみどり」、我が大和村では秋の「江の川カヌーツーリング」、石見町では「香木の森」の数々のイベント、等々いずれも川をステージとする、清流を活用したイベントが数多い。

また、今後は渓谷の小川を利用して、小水力発電所を作り売電収益によって、不況のあおりで経営不振となっている、第3セクターの収益改善に役立つものと考えられる。

川に生き続けている多くの生物の中で、清流でなければ生き続けられない生物、それが国の特別天然記念物に指定されている「オオサンショウウオ」である。専門家に聞くと体長で最大のものは、日本では1.5メートルに達するものが見つかった記録があると言う。体長が50センチメートルになるには、約45年から50年かかると言われているが、私の村では1.06メートルの大物が何頭か見つかっている。

この「オオサンショウウオ」の生息環境に適した清流を、3年前に、「山陰両棲類研究会」が、約2粁を6名の調査体制で長期間かけて調査した。その結果体長平均50センチメートルの「オオサンショウウオ」81頭が確認されている。また、産卵場所も3個所発見されたので、「この川は、オオサンショウウオの生息地として、日本で最も重要な河川」と言われた。そして又、上流の瑞穂町での生息数は、町の人口(5,278人)位いると言われている。この町では、天然記念物整備活用事業として「ハンザケ自然館」を建て、「オオサンショウウオ」の基地としての活用を計画中である。

また、江の川の「簗(やな)漁」は、水の適量な増水が続けば、一夜にして200kgもの鮎の水揚げがある珍しい仕掛けであるが、現在ではこの江の川流域で1個所しか残っていない状況である。

これら、川の清流を後世に伝えて行くための行政施策は、我々に課せられた重要な責務である。その一端として各町村が下水道処理に力を入れて実現していることは、頼もしい限りである。

以上のように、川は行政に夢を与えてくれることが多くある。清流・水辺・風景・生息する稀少生物等、全ての資源を江の川沿岸の町村が、広域的に連携をとりながら総合的に活用することが、自然と行政の美しい共存ではないでしょうか。

全国の町村長さん方には、1度ご視察いただきまして、英知を授けて下さることを願っております。