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 健康づくりに思う

印刷用ページを表示する 掲載日:1999年10月4日

栃木県町村会長 岩舟町長 渡辺芳美

8月6日の厚生省発表による「1998年簡易生命表」によると、日本人の平均寿命は男女とも依然として世界一である。健康先進国といえるだろう。政治・経済などの国際評価は低くなっているが、健康一流と誇ってもいい。

一方、厚生省の「1997年度健康マップ」によると、栃木県の脳血管疾患(脳卒中)による死亡率は、男性が全国ワースト2の46位、女性は全国最悪の47位とあって、ショックを受けた。栃木県内では岩舟町は男性が下方から9位、女性は下から4位ということである。決して良い順位ではないが、かつて昭和63年発表の標準化死亡比県内ワースト1の事実を思い起すのである。理由は色々あっても最下位は辛い。

「禍を転じて福としよう」と、汚名返上の取り組みをし脳卒中に挑戦しようということになった。平成元年、脳卒中を防ぐために、運動普及・栄養改善を柱に、いきいき岩舟推進プラン(岩舟町健康づくり推進十か年計画)を策定しスタートした。

このプランの特長は、病気の早期発見、早期治療という「2次予防」から病気の発生予防、健康増進という「1次予防」に重点をおくことだった。そのために健康づくりは人づくりと発想し、運動普及推進員・食生活改善推進員というボランティアの養成から始まった。推進員は「頼まれて」よりも「自分から」の姿勢になってくれた。「情けは人のためならず」という掛け声に呼応して軌道にのった。健康づくりに町民の関心が高まった。健康づくりに熱中し、妙なたとえだが「病膏肓に入る」人も現われた。ある女性は「健康であれば死んでもいい」とジョークをいう。

この町では運動実践事業を経て、ウォーキング熱が町内あまねく広がった。

「医学の父」と呼ばれる古代ギリシャの医師ヒポクラテスは、歩行することに予防医学的価値を見出し「歩行は人間の最良の薬である」と言っている。嬉しい応援歌である。アメリカのウォーキング人口は5千万人といわれ、健康に関する意識高く、身体を自己管理できることがステータス・シンボルとまで言われているという。

厚生省の調査によると、1日1万歩以上歩く人は2千歩未満の人に比べて血圧が低く、善玉コレステロールの量も多い。私は自らに戒律を課して、妻とともに毎朝3.5キロメートルを歩く。いささか自縄自縛の観あるが、若返りはむりとしても老化に抵抗する効果はある。キャリア20年を超えた。

「為せば成る」。10か年プランは予期以上の成果をあげて一応完結した。良いことは続けようと次の計画を思案中に強い味方が現われた。いきいき岩舟推進プランの評価と今後10か年のプラン策定のための「地域保健特別事業」の国庫補助の内示があった。11年度から2年間でこの事業を行う。平成13年からアンコールプランを進めたいと考えている。

もとより私たちは「健康づくり」や「医療」について確かな専門的知識をもたない。健康管理に医師は最大の指揮者であり助言者であろう。最近における医師、医学生などの不祥事は政治家不信を上回るものがあるが、大方のドクターは科学的で良心的、奉仕的であると思う。健康づくりはもとより医療について、医師対患者、医師対住民の信頼関係が何より大切だと思う。

健康づくり行政に案外批判派もいる。役場は戸籍・学校・道ぶしんでもやっていればいい。健康だの介護だのと余計なことはしないで小さな政府でいい、という達眼の士がある。さらに、苦しいこと嬉しくないことの方が多いこの世にむりに長生きしても仕方がないだろう、と迫る大悟の士もある。

「健康で長生き、爽やかにあの世へ行こう」と防戦するのである。