岡山県矢掛町長 山岡治喜
矢掛町は岡山県の南西部に位置し、倉敷市から西北へ約20キロメートル、奈良時代の政治家・吉備真備公のゆかりの地、吉備文化発祥の地である。古くから旧山陽道18番目の宿場町として栄え、全国唯一本陣・脇本陣がともに国の重要文化財に指定され、今なお健全な形で揃って保存されている。また、昔ながらの妻入造りの建物が数多く現存するなど、歴史と伝統文化、自然環境に恵まれた人口1万7千人の町である。
私はこうした町に生まれたことを大変誇りに思っている。そして『自分の町が好きだ』という住民が多くなることが住み良い町であると考え、町づくりへの熱い思いから昭和57年町長に初当選、今日に至っている。民間から出た者として常に町民の立場に立った公正かつ迅速な判断をもって、信頼される行政運営こそが住民の付託に応えることであるという信念から、厳しい財政状況ではあったが、恵まれた自然と文化遺産、そして多くの皆さんからの貴重なご意見を糧としながら、いわば時代の先取りとアイデアで、これまで鋭意取り組んできたところである。
特に、昭和57年就任当初に取り組んだ「リサイクル福祉事業」は、国の無形文化財に指定されている備中神楽の面を題材に、新聞紙など古紙を利用した民芸品の神楽面を高齢者の皆さんに趣味で作っていただき、これを販売した収益金を積み立てて、ねたきり老人や心身障害者などの福祉対策に還元するという事業である。「老後を楽しく、趣味で福祉のリサイクル」をキャッチフレーズに、高齢者の社会参加と資源の再利用、さらに福祉財源の創出という、まさに高齢化をプラス思考でとらえた小さいながら一石三鳥の事業であると考えている。
また、昭和59年に始めた「ふるさとメッセンジャー事業」は、本町の河川に生息していた源氏ボタルを保護増殖するとともに、このホタルをメッセンジャーとする都市に住む人々との交流事業であるが、本町の恵まれた自然環境と文化、そして観光物産を全国に紹介できるとともに、自然保護に対する住民意識の高揚とコミュニティづくりに好影響を及ぼしている。
さらに、本陣・脇本陣を中心とした宿場町の景観を生かした「くらしのみちづくり事業」、「公共下水道事業」や「農業集落排水事業」などの住環境整備をはじめ、保健・医療・福祉を有機的に結びつけていく「在宅療養ほっとライン」の設置、子育て支援制度の充実など、1人ひとりが安心して暮らしていける福祉の充実や若者の定住条件整備にも取り組んできた。本年1月11日には長年の念願であった鉄道井原線が開業し、沿線住民の利便性向上と経済的効果に大きな期待が寄せられ、4月には公共下水道が一部供用開始し、また図書館と音楽を楽しめるホールなど生涯学習の拠点施設としての機能を備えた『やかげ文化センター』がオープンするなど、確実に『健康で活力ある快適な町づくり』構想が実を結びつつある。
一方、地方分権社会の進展により、ますます地域間格差が大きくなることが必至であるだけに、住民の皆さんにも『町づくりに参加しているんだ』、『自分たちの町だ』という意識と実感を更に高めていただくことも、今後の行政に課せられた大きなテーマであり、行政と住民が一体となって、きめ細かな施策を展開し、住民の真の理解と共感を得ながら、次代に対応し得る『体力ある矢掛町』をつくっていくことこそ極めて重要であると考えている。