秋田県比内町長 大澤清治
比内町の特産のひとつに、別名“畑のキャビア”とか“陸のカズノコ”とも呼ばれ親しまれている宝玉のような「とんぶり」がある。
とんぶりの栽培の歴史は古く、徳川時代の農業全書にも記されており、学名をアカザ科ハハキ、地元では一般的な名を「ほうき(箒)草」といい、原産は、中央~西アジアで、中国を経て伝来したといわれている。
この「とんぶり」は、ほうき草の一年草の実を加工したもので、利尿効果があるとされている古くからの自然食品である。「昔は茎で庭箒を作り、実は農家や近在の人が食べるだけだった」とも言われ、実際に実を食用とするのは、精進料理としての使い方が主流だったようである。
1~2ミリの小さな緑色の実は、外見は魚の卵に似てプリプリとした歯ざわりの良さは絶妙な風味がある。
比内町ではこの「とんぶり」を食物性の珍味として、昭和48年から全国に向けて販売を開始し、それまでの地元だけの食品から秋田の珍味として、主に東北、関東をはじめ全国各地へと販路の拡大を図っていった。
料理方法も多種多様で“とんぶりずし”“月見とんぶり”“ナメコと長芋とんぶり”“とんぶりスパゲッティ”“ヨーグルトケーキ”等々和風洋風すべてにマッチする手軽さがうけている。
さて、平成9年1月号の健康雑誌「壮快」でとんぶりは「アトピー性皮膚炎のかゆみ、痛み、炎症をおさえる」効果があると紹介された。実験を行ったのは、玉川学園岡田医院院長の岡田研吉氏、氏によると、とんぶりは「地膚子(じぶし)」という漢方薬局で、手に入る漢方薬の材料になっていて、この地膚子は最も信頼されている中国の漢方の大古典「神農本草経」に載っている由緒正しい漢方薬とのことであるという。ほかにも、利尿作用があるので膀胱炎や腎炎に効く、また、腹水が原因の病気の治療に役立つ、頭痛、目のはれや痛みに効く、ビタミンAが含まれているため、緑内障や疲れ目解消に役立つ。肝臓の機能を増強する殺菌作用があるためカビに対して強い力を発揮する、痔の人は煎じ汁でおしりを洗うと良い・・・・等々、いづれとんぶりはまさに万物に効く健康食品という訳である。
比内町のとんぶりは生産量、生産額とも日本一で、国内市場の90%以上を占めている。
平成8年度の収穫量調査によると、農家戸数72戸、作付け面積65ヘクタール、生産量222トン、生産額1億1千544万円は、まさに特産の王様である。
しかし、この日本一のとんぶりにも大きな悩みがある。それは生産戸数が平成2年を境にして徐々に減少傾向が続いていること。要因はなんと言っても農業従事者の高齢化、兼業化の進行や担い手不足などもあり、その対策が緊急の課題である。
秋田県の北部に位置し、面積約205平方キロ、人口1万3千人弱の山間の町比内町は先人が残した生産の技術と知恵を、更に後世に引継ぐ為、黙々と技術を磨いている。
水清く、沢美しく、人情こまやかな比内人は自然の宝を今、日本中へ、否、世界中へ発信しようとしている。
いつか旅先で「とんぶり」と出会ったら是非一声かけて欲しい。