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「住む」から「暮らす」へ「ヒューマンスケール」のまちづくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2026年10月19日更新

竹野内 啓佑 広島県海田町長 竹野内 啓佑​​

〔均質化する故郷〕       
 大学で建築を専攻した私は、古い街並みの歴史に魅了され、京都市役所で社会人生活をスタートした。伝統を重んじる価値観と新しいものをつくる創造性に触れた。その後、広島へUターン。広島市役所でまちづくりを実地で学んだ。「自分たちのまちは、自分たちの手でつくり、まもる」。それが私のまちづくりの原点となった。

 子育てを機に故郷の海田町へ移り、市職員を続けながら地域の自治会長を引き受けた。「自分事」として地域活性化やコミュニティの再生に取り組む。身近な生活空間の改善がまちの魅力に欠かせないと考えたからだ。しかし、ふと見渡した故郷の姿に言い知れぬ寂しさを覚える。放課後の駄菓子屋、通い詰めたゲームセンター、夏祭りの神社の縁日――。それらは姿を消していた。風景や思い出が徐々に書き換えられ、故郷の「アイデンティティ」が失われていく。我がまちは効率性と引き換えに、全国どこにでもある均一な空間に変わりつつあった。

〔立候補の決意〕
 仕事と子育てに追われる日々、新聞の町長選挙の記事が目に留まった。選挙は、自分たちが町のことを真剣に考えるまたとない機会だ。しかし当時、現職以外の動きはなかった。「誰も出ないなら、自分が出るしかない」。そんな思いに駆られ、立候補を決意したのは選挙戦のわずか3ヵ月前。何の後ろ盾もない43歳の無名の新人だった。「つくろう、新しい海田。」というスローガンのもと、10年後を見据えて「暮らし」にフォーカスした公約を掲げた。開票結果の「5133」という得票数は、私個人への評価ではなく、この町を変えてほしいという切実な思いそのものである。

〔ベッドタウン特有の悩み〕
 西国街道の宿場町として栄えた海田町は、高度経済成長期を境に広島市のベッドタウンとして急速に発展した。近年の国勢調査では人口3万人の大台を突破し、一見すると地方都市として堅調に映る。しかし、これを単純な発展と捉えることはできない。20代から30代の流入が多い反面、同世代の流出も激しく、地場産業など生業による「地域に根差した暮らし」の割合は高くないからだ。生活利便性や不動産価格だけで選ばれ、昼間は大きな都市へ働きに出る世帯が多くを占めるベッドタウン。「住む」だけで「暮らし」が感じられない、味わいのないまちになってしまうのも無理はない。

〔「住む」から「暮らす」へのシフト〕
 そこで、新たな総合計画では、人中心の視点で、人で賑わう空間をつくろうと「ヒューマンスケール」のまちづくりをコンセプトとした。自分らしい暮らしをおくりながら、自然に癒やされ、グルメを楽しみ、お気に入りの居場所でくつろぐ。そんな「暮らしに根差した町」をめざしますと宣言した。このコンセプトに共感する住民や、温かみのある思い出や風景をともにつくる民間企業を呼び込みたいという考えだ。

「住む」から「暮らす」にシフトするには、「ひと」と「まち」との距離を縮め、日々の生活を楽しめる仕掛けが必要となる。家庭と職場以外の「第三の場所(サードプレイス)」の象徴「スターバックス」の誘致を公約としたのもそうした考えからだ。チェーンに限らず、多種多様な「まちの居場所」が町内にあれば、自分に合った「マイプレイス」に出会うことができる。それは結果的に、一人ひとりの自分らしい暮らし方を保障することにつながる。「安全」「便利」「快適」という機能だけでなく、「このまち、なんかいいよね」と五感に訴える魅力的なスポットが増えれば、地域での時間消費も増え、まちへの愛着も育まれる。

〔「自分らしく暮らせるまち」への歩み〕
 「あるものを活かす」発想で、役場1階のフリースペースを年中無休で夜9時まで地域に開放した。平日・休日を問わず学生が勉強し、大人がパソコンに向かう光景は今や日常だ。他の公共施設も積極開放を進め、「サードプレイス」創出に向けた空間改修を予定している。民間へのアプローチとして、魅力的な店舗を誘致する補助制度も立ち上げた。町内には個人経営のカフェが次々と誕生し、人を惹きつける流れが生まれ始めている。気軽に立ち寄れ、いい時間を過ごせ、誰かとつながる。そんな「まちの居場所」が、暮らしを楽しむ時間をつくり、暮らしに豊かさをもたらす。

 海田町が描くべき将来は、住民が思い思いの時間を過ごしている「暮らしの解像度が高いまち」ともいえる。隣接する広島市への依存度が高いベッドタウンから脱却し、一人ひとりが暮らしの豊かさを実感できる「ホームタウン」へ。2つの都市で学んだまちの文脈を読み解く大切さを胸に、ハードとソフトを調和させながら、暮らしをデザインしていく。「自分らしく暮らせるまち」への変化は、じわりと始まっている。

海田町のコンセプトを表現
海田町役場 
新・オフィシャルサイト https://www.town.kaita.lg.jp/