島根県美郷町長 嘉戸 隆
美郷町の紹介
美郷町は、人口約4,000人、高齢化率約48%で、町を貫流する中国地方最大の江の川沿いに集落が点在しています。雲海や美肌温泉、山くじら(猪)や美郷もみじ(鹿)のジビエ、伝統芸能の石見神楽など観光コンテンツも充実しています。また、カヌーが盛んで、バリ島マス村との草の根の交流が30年以上続く町です。
一方で、高校、中核病院、鉄道、ホームセンターやドラッグストアもない辺境の町でもあります。
めざす町の2つのビジョン
めざす町の2つのビジョン「活気あふれる明るい町」と「外部と活発な交流のある町」の実現に向け、戦略的に取り組んでいます。
私は、民間出身であり、特にさまざまな課題の根本原因である人口減少問題には、マーケティング的アプローチを重視して取組んでいます。
「若者の流入」「子どもを安心して生み育てる環境づくり」を図るため、“子育て支援のその先へ”をコンセプトにした「子どもの成長支援」や、太陽光パネル、EV車用電源等を標準装備した移住者向け住宅の整備等、踏込んだ移住定住施策を展開しています。
一方、日本全体の若年層人口が減少していく中、将来にわたって町の活気を生み出していくためには、直接的な人口増対策だけでは十分でない、と思っています。
そのため、意図を持ち繰り返し町を訪れる「滞在人口」、町外に住みながら町の活気づくりに力を貸す「活動人口」を生みだすため、産官学民や地域・住民と連携した取組に注力しています。
町の強みを活かしたその代表的な3つの取組を紹介します。
カヌーの町づくり
2024年10月に、バリの伝統建築をモチーフにしたクラブハウスをはじめとしたカヌー競技場を整備しました。2025年8月にはインターハイが開催され、2030年には国民スポーツ大会が開催される予定です。
さまざまな競技団体や地元クラブと連携し、カヌー競技者の裾野拡大・育成に注力しており、地元中学校の人気NO.1部活動になっています。
普段は地元中学校・近隣高校の練習場ですが、大学生の合宿も増えており、今後、全国レベルの大会の定期開催も計画しています。
バリの町づくり
マス村との交流で町に根付いたバリ文化を活かし町づくりを進めていくため、2024年4月に「バリの町条例」を制定し、「バリの町」を宣言しました。
職員は、クールビズとしてインドネシア伝統の「バティック」「イカット」シャツを着用しており、町内には日本最大級のバリ伝統音楽ガムラン楽団・バリ舞踊団が結成されています。
町では、マス村と姉妹都市提携を結んだ9月10日をバリの日と定め、小中学校でのバリ給食や中学生のバリ訪問、全国や海外からバリ関連の演奏者、舞踊者やバリ好きが集う「美郷バリ・フェスティバル」を定期開催しています。また、町が保有する3つのガムラン楽器等を展示し、演奏体験もできるバリ文化交流体験施設も整備しました。そして、マス村との自治体同士の信頼関係をもとにバリ島からの技能実習生も延べ11人受け入れ、地域に馴染んでいます。
2025年12月には、インドネシア国立芸術大学バリ校と包括的連携協定を締結し、取組の大きな広がりが期待されています。
美郷バレー構想
“獣害対策の最先端の技術や情報が入り、人脈も広がる町”をめざし、獣害対策版シリコンバレー「美郷バレー」構想を推進しています。
2021年4月には、麻布大学が本学以外初の教育研究拠点を町内に設置、獣害対策機器メーカーが町内進出するなど、現在11の産官学民と連携協定を締結しています。
町をフィールドにしてさまざまな実験、研究が活発化し、獣害対策に止まらない取組が次々と展開され、多数の学生、研究者等が入れ替わり町を訪れ滞在するようになっています。
多数の視察もあり、日経BPの全国自治体視察ランキング2025では、総合29位、10万人未満7位になっています。
革新は辺境から
こうした取組を通して、滞在人口、活動人口は年々増加し、移住にもつながっています。また、町民との交流も活発化し、新たな活気も生まれています。
美郷町は辺境の町です。しかし、いつの時代も、どこにおいても「革新は辺境」から始まります。
これまで蒔いてきた種からいくつもの芽が出てきており、今後大きく花開かせ、町の未来を切り拓いていきたい、と思います。

