宮崎県高鍋町長 黒木 敏之
2年前のことだ。2023年9月17日、岡山市民ミュージカル、RSK創立70周年記念、東和ハイシステム・プレゼンツ「慈愛と恵み 石井十次物語」が岡山市で上演された。
「岡山県出身の俳優さんと岡山市民の力の結晶!感動の連続で、魂が震えた!」
ミュージカルを観た人の感想である。ミュージカルは成功し、石井十次の功績を未来へとつないだ。
岡山には「岡山四聖人」という言葉がある。「岡山四聖人」とは、明治から昭和初期にかけて、岡山で救済事業に生涯を捧げた、社会福祉の先駆者たち「石井十次」「留岡幸助」「山室軍平」「アリス・ぺティ・アダムス」4人の人物のことを称し、岡山県民の多くの人が高く評価し尊敬している。中でも、「孤児の父」と呼ばれ、日本で最初に孤児院を設立し、生涯を孤児救済活動に捧げた石井十次は特に評価が高い。
高鍋町は、石井十次を郷土の偉人として尊敬し、その顕彰活動に取り組んでいるのだが、岡山での、石井十次の評価の高さ、その功績を次世代に繋ぐエネルギーの高さに圧倒されてしまう。高鍋町は、素朴な小学生の児童劇を継承して石井十次の功績を顕彰している。それに対し、岡山は、プロの俳優と市民が参加しての豪華なミュージカルである。この違いに、「岡山は県を挙げての取組だ」「人口規模が違う」「資金力の差がある」というマイナス思考の視点で捉えてはいけないと考えた。この事実に、高鍋町が、謙虚に学ぶとすれば、高鍋町も、小さな町ではあっても、今までにない新たな取組を考える必要があると捉えるべきである。そこでミュージカルを起点に「石井十次と音楽の関係」を巡ってみた。
石井十次の孤児救済活動には「岡山孤児院慈善音楽幻燈会」という事業があった。ある時期、石井十次は「慈善音楽幻燈隊」を組織し活動した。この音楽幻燈隊の活動は、1893年(明治26年)に始められ、その後、幻燈を活動写真に変えて、1911年(明治44年)まで、18年間にわたり続けられている。その活動の目的は、全国各地や海外にまで巡回し、岡山孤児院の運営・活動資金を募集し、孤児院を支える「慈善ボランティア」組織の構築に取り組むことであった。
「慈善音楽幻燈隊」はどのような曲を演奏したのであろうか。石井十次の研究資料に、1902年(明治35年)の「岡山孤児院音楽幻燈会」と題された「音楽幻燈会」のプログラムを見つけた。このプログラムに、『④ 「ウーベルジュール」、雪の進軍(軍歌)の演奏。』の項目があった。音楽幻燈隊は、『「ウーベルジュール」、雪の進軍』を演奏していたことになる。
毎年8月に、「石井十次セミナー」が、社会福祉法人石井記念友愛社(児嶋草次郎理事長)の主催で開催される。このセミナーは石井十次の研究者や児童福祉関係の識者を講師に迎え、石井十次の功績や児童福祉を学ぶ勉強会である。毎回、講義の前に、馬込勇先生(平成音楽大学教授)の指揮による藩校ブラスアカデミー(高鍋町の中高生のブラスオーケストラ)の演奏がある。石井十次の「慈善音楽幻燈隊」を再現した演奏である。馬込先生にお願いして実現した。多くの参加者の共感と感動を得ている。しかし、実は、指揮者の馬込先生は「音楽隊が演奏した曲の記録資料がないこと」を残念に思われていた。馬込先生は、岡山孤児院の音楽隊を再現するため、当時の音楽隊が演奏したであろう曲を、時代を考証して選曲し、演奏されていた。その選曲も見事で、毎回、素晴らしい演奏である。
馬込先生に「音楽隊の曲目を見つけました」と報告した。今回発見した『「ウーベルジュール」、雪の進軍』である。「次回必ず演奏しましょう」と折り返しの連絡がきた。次回の石井十次セミナーが楽しみである。何事も小さな発見や新たな積み重ねが大切なのだ。