福岡県大刀洗町長 中山 哲志
大刀洗町は福岡県南部、筑後平野の田園風景が広がる筑後川の中流右岸に位置する面積約23km²、人口約1万6千人の小さな町です。
特徴的な町名は、南北朝時代、後醍醐天皇の命で九州に下った懐良親王を奉じて戦った武将・菊池武光公が、大原合戦の後に血に染まった太刀を小川で洗ったという太平記の故事に由来します。また、かつて東洋一の飛行場とうたわれた大刀洗飛行場があった西日本航空発祥の地であり、太平洋戦争末期には特攻隊の中継基地として、一部の爆撃機はこの地から特攻に飛び立ち、昭和20年3月27日と31日の米軍の大空襲で壊滅的な被害を受けた歴史があります。一方で、大刀洗町は隠れキリシタンの里として、江戸時代の禁教期を通じて信仰を守りぬいた地域でもあります。このため、戦前や戦後間もなくの頃は気兼ねなくカトリック信仰ができる南米へ多くの移民を輩出し、ブラジルの国会議員で日系人初の大統領候補とも言われた平田進さんも大刀洗町にルーツがある方です。現在も多くのカトリック信者が居住し、「今村天主堂(国指定重要文化財)」はドイツをはじめ国内外から多くの寄附を募り建設された八角形の双塔を有する築100年を超える木造レンガ造りの教会ですが、熊本地震等を踏まえ、現在、文化庁の指導の下、大規模な改修工事に取り組んでいるところです。
全国的にも有名な「三井の寿」等の酒蔵もある大刀洗町は、昔から筑後川の水の恵みとその脅威とともに暮らしてきた地域であり、江戸時代から筑後川に堰を築き、水路を開き、肥沃な土地で農業を展開してきました。米・麦・大豆を中心に、レタスや小松菜、ホウレン草等の野菜の栽培が盛んです。
町の北部を第3セクターの甘木鉄道と大分自動車道が東西に通り、町の東部を西鉄甘木線が南北に貫く大刀洗町は、久留米市、小郡市、朝倉市、筑前町に隣接し、福岡市にも1時間程度で通うことができます。比較的に恵まれた地理的・交通的条件を生かし、子育て支援と教育環境の充実に重点的に取り組んできた結果、減少傾向にあった人口は、近年、増加に転じ、本年3月末の人口は町長就任時の令和2年1月末と比して474名、15歳未満のこどもの数も137名増加しています。また、大東建託がインターネットで住民に調査した「街の幸福度ランキング」では、大刀洗町は九州・沖縄で2023年は第1位、2024年も第3位に選ばれるとともに、小中学生の学力も向上しています。これまで取り組んできた子育て支援や教育環境の充実等の施策の成果が少しずつ出てきた結果ではないかと嬉しく思っているところです。
大刀洗町の特徴的な施策の一つに住民協議会(自分ごと化会議)があります。2014年から政策シンクタンク「構想日本」の協力の下、毎年実施しているこの住民協議会(自分ごと化会議)は条例設置の正式の審議会である一方、その委員は住民基本台帳から無作為で抽出して、参加を希望した住民20~30人から構成され、町の課題を行政任せにせず、住民自らが自分事として町の状況を知り意見を出し合い、答申書をまとめていくもので、参加した住民の評価は高く、参加したことでその後の意識や行動に変化が生まれています。これまでに、「防災」、「暮らしの中の鉄道」、「わたしたちの健康づくり」、「ごみを減らすために私たちにできること」、「私たちが考える治水デザイン」、「大刀洗町の農業の未来」等をテーマに、委員に就任いただいた住民は339名と町の人口の2.1%を超える方に委員を経験していただいたことになります。町のこと、地域のことを「自分ごと」として考え、行動くださる町民が増えていけば、大刀洗町の未来はより良いものに変わっていくと確信しています。今後とも町民の皆さまに「大刀洗に住んで良かった、住み続けたい」と思っていただけるよう、これからも町民の皆さまとの「対話」を大切にした町政をめざしてまいります。