宮崎県美郷町長 田中 秀俊
美郷町は、県北部に位置し、森林面積が約90%の自然豊かな自治体です。市町村合併前の旧3村の合計人口が最も多かったのは昭和30年の、21,382人で、令和2年度の国調人口は4,826人であり、高齢化率は県内で最も高い52.5%と人口減少対策が待ったなしの状況にあります。
そこで本町は、第2期美郷町まち・ひと・しごと創生総合戦略に基づき、令和2年度から町内24の行政区ごとに人口分析と人口予想の報告や住民ワークショップを行い、地域資源の洗い出しや課題の可視化を行なうとともに、課題解決や交流人口・関係人口の増加による定住が促進されるための計画の策定に取り組んできました。この定住計画の策定と実践事業を総称して、地区別定住戦略事業、略して「ちくせん」と呼んでおり、令和5年度から24のすべての行政区で、地区が主体となった計画の実践活動が始まりました。
「ちくせん」の取組
これまで顕在化していた地区の課題に対して、少しずつ自分事化として目が向けられるようになった半面、いざ始めてみるとさまざまな疑問や課題が発生し、地区によって取組の温度差が大きいことが見えてきました。そもそも、本町は3つの村が合併した広大な面積を有しており、役場周辺の地区と町境の山間部の地区では課題や困りごと、人材や施設、地域資源も大きく異なるため、各地区の活動の違いも出てきております。
昨年までの、各地区ちくせんの特徴的な活動を一部紹介しますと、多くの地区で、空き家のリスト化、所有者調査が進められており、地域資源(特に川)を利用しての魚のつかみどりや釣り大会等のイベントが開催されました。また、複数の地区が、休耕田等を利用した、ひまわりやコスモスをはじめとした景観作物の栽培を実施し、近くの直売所の売り上げが伸びたという地区もあるなど、各地区で特色のある活動が実施されています。このちくせん事業は、「無理をせず」「前向きに」「自分事化」して活動していくことが、持続可能な地域運営につながると考えておりますので、今後も、地区と行政で連携しながら事業を進めていければと期待してます。
「みさと わくわくプロジェクト」の取組
また、本年度は、ちくせん事業を含めた新たな戦略、第3期美郷町まち・ひと・しごと創生総合戦略の策定を行っています。これからも住み続けたくなる魅力的なまちづくりを進めていくために、町民・地域団体・事業者と行政が、それぞれの立場で積極的に参画しながら、今後の目標やまちづくりの方向性を定め、具体的に取り組んでいくための計画です。これまで多くの住民が、町総合戦略の内容やめざしている方向性を知らなかったり、自分自身がまちづくりにどう関わればよいのか分からないといった声がありましたので、今回は外部の支援をいただきながら、コミュニティデザインの力により、人がつながる仕組みをつくりながら住民主体のまちづくりにつなげる取組を行っています。
具体的には、住民ワークショップや役場職員研修会を繰り返し開催して、わくわくする理想の暮らしを実現するために必要なアイデアと、またそれらを実現するためには町民や事業者としてどのように関われるかなどを話し合い、まずは町のビジョンと5つの方向性を定めました。
ビジョン
「~町で楽しくすごしたいよね~ みさと わくわくプロジェクト」
5つの方向性
一、会えるきっかけと場所がある町
二、学び合い楽しみを分け合える町
三、子供たちが毎日楽しい町
四、支え合いが広がる町
五、美郷ならではが味わえる町
この2つの取組を通して感じていることは、策定プロセスに当事者となる地域の多様な主体が関わることで、「自分たちがつくった」計画となり、町民主体、あるいは町民・役場の協働によるアクションにつながります。しかし、それ以上に私が素晴らしいと感じているのは、各地区で、属性にとらわれず、地区や町の未来を考える場ができたことと、これらの課題に自分事化として目を向けるようになっている住民の姿勢であります。未来を考える場、自分事化する姿勢、この2つがあれば、今後も各地区で素晴らしい取組が生まれて、地域がそして町が続いていくと確信しております。