滋賀県日野町長 堀江 和博
◯ 職員一人ひとりが大切
コロナ禍が始まった令和2年7月に就任し、今年で4年目を迎えました。この間、首長の仕事として「最も重要かつ難しい仕事」は「人事」だということがよく分かりました。役場を一つの大船に例えるなら、町長は進むべき方向を指し示す船長ですが、その船を実際に動かしてくれるのは一人ひとりの「職員」です。
一昨年、日野町役場に勤める正規職員全員と「1on1ミーティング」をしました。若手職員から幹部職員まで町長室に招き、一人あたり30分間、一緒にお茶を飲みながら、仕事のことや家庭のこと、趣味や日頃考えていることなど、私が聞き役となってお話をする機会を設けました。半年近くかかりましたが、やって良かったと思っています。
人は多様な側面を持つ存在であり、職場にいるだけでは見えない人としての魅力、別の側面が必ずあります。職員である前に一人の魅力ある人間です。これまでは組織という大枠に職員を当てはめてきましたが、これからの時代は「職員一人ひとりの形に合わせた組織」が求められています。
◯ ニューロダイバーシティ
ところで、皆さまは「ニューロダイバーシティ(神経学的多様性)」という言葉をご存知でしょうか。ニューロダイバーシティとは、人間の脳には多様性があり、その違いは障害ではなく個性の一つと捉える考え方です。自閉症スペクトラム、ADHD、学習障害、発達障害などとカテゴライズされるニューロマイノリティ(神経学的少数者)だけでなく、そもそも誰しもが脳や神経由来の多様性を持っています。その違いを受け入れ、一人ひとりの長所を活かせる環境を整えていく必要があります。
米国のIT系民間企業などでは早くから、集中力や専門的知識を要する得意分野をIT業務で活かす取組が広がっており、コミュニケーションや情緒など苦手分野は周囲が支え、チームとして成果を挙げている例があります。一方、日本の一部企業においてニューロダイバーシティの観点からの人事が進みつつありますが、経済産業省が2022年3月に公表した調査によると、発達障害を持つ方の就職率は3割程度にとどまり低調と言えます。
◯ 公務職場に受け皿はあるか
では我々の公務職場はどうでしょうか。町村レベルの職場では、人員体制も限られ、一人の職員が複数の担当を持つ状態です。住民との距離も近いため、職場はもちろん住民とのコミュニケーション力が求められます。定期人事異動もあり、環境適応力も求められます。一つの物事に集中して打ち込む「スペシャリスト」よりも、業務を広く担当し、周囲とコミュニケーションを取りながら仕事を進める「ゼネラリスト」が求められている職場と言えます。
このような職場は、コミュニケーションや環境適応に苦手な方には馴染みにくい職場かもしれません。限られた人員体制の中で業務を遂行する組織として、このような職場環境を改善することは重要なことですが、何より、すべての職員がやり甲斐を持って働ける職場にすることこそが最も重要なことです。
以上のように、ニューロダイバーシティを踏まえた職場のあり方は、公務職場はもちろん、民間企業にも浸透していくことが今後のあるべき社会の姿と考えます。現在、個人レベルでの勉強会をスタートする準備をしています。関心がおありの方は、フェイスブック等経由で私へご連絡をいただければと思います。