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小さな村の夢ある挑戦 ー人が地域を創るー

印刷用ページを表示する 掲載日:2024年6月17日更新

熊本県産山村長 市原 正文熊本県産山村長 市原 正文
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 新型コロナウイルス感染症が5類に移行し、私たちの生活が通常に戻りつつある中、今年1月、「能登半島地震」が発生しました。大きな地震とともに、津波・火災・土砂災害等が複合的に襲いかかった被災状況を目の当たりにし、胸を痛めるとともに、防災施設の整備など、積極的な対策を講じていくことの重要性を痛感しました。災害対策を怠ることなく、地域の安全と安心の確保に努めていきたいと思いを強くしているところです。

 改めて、地震により亡くなられた方々に心からお悔やみを申し上げますとともに、被災された全ての方々にお見舞いを申し上げます。そして、少しでも早い復旧・復興を心より願っております。

 さて、産山村は人口1,400人ほどの小さな村で、熊本県で2番目に人口が少ない農山村です。熊本県の最北東部、阿蘇北外輪山と九重山麓が交わる標高約500m~1,050mに至る高原地帯に位置し、広大な草原と谷あいの美しい里山風景が特徴的です。360度のパノラマが見渡せる草原に放牧する畜産、湧水を使用した米栽培、冷涼な気候条件を利用した野菜栽培やクヌギ原木による椎茸栽培など、高原ならではの自然環境を活かして生業とする里山の暮らしを代々続けています。

 平成11年から平成22年にかけて実施された平成の市町村合併(平成大合併)の際、産山村は合併を行わず、小さな村として生きていくことを選択しました(平成17年)。当時私は、産山村教育長を務めておりました。平成25年の村長就任までの約20年間の教育長時代の思いは現在の村政の基盤となっています。

 「小さな村の夢ある挑戦」。当時の先生方とともに、“産山ならではの教育”“産山でしかできない教育”つまり、産山村にとって最適な教育のあり方を模索しました。二つの小学校の統合を機に、平成19年より『小中一貫教育』をスタートさせ、「2学期制の導入」や「ICT教育の推進」など先進的な取組に挑戦しました。さらに、0歳からの育ちをつなぐ一貫教育を目指すために、平成25年度から「うぶやま保育園」を教育委員会に移管し、0歳から15歳までの育ちをつなぎながら教育効果の向上を図りました。これらの教育改革は平成30年に移行した義務教育学校(産山学園)に継承され、深化・発展しています。

 産山村の教育改革には、「人が地域を創る」という視点が常に根底にありました。産山村を創っていくうえで重要なのは、地域住民と行政が一体となった村づくりです。産山村が持つ可能性を引き出すことのできる人材の育成、中でも、次世代を担うこどもたちの教育を充実させることが重要だと思っています。

 もう一つ産山村ならではの事業として、「ヒゴタイ交流」があります。「ヒゴタイ交流」は、「村独自の誇りある教育を」という思いから、昭和63年(1988年)より始まったタイ王国国立カセサート大学附属中学校との国際交流事業です。村花であるヒゴタイの花と「肥後の国(熊本)とタイ王国」を掛けた名前で、「ヒゴタイ交流」の愛称で広く村民に親しまれています。交流生(毎年4~6名)が、互いに長期休業を利用して3週間ホームステイをし、授業を受けたり、行事に参加したりします。コロナ禍など大きな困難を互いの深いつながりで乗り越え、昨年36年目を迎えることができました。小さな村にいても視野は世界に開かれ、グローバル社会に対応できる人材の育成につながっています。

 急激な人口減少や高齢化が進む中、村の資源を生かし守りながら、持続可能な村づくりを進めるには、さまざまな課題があることは確かです。しかし、「小さな村」だからこそできることがあるはずです。村政2期目に策定した「うぶやま未来計画」には村の“強み”として、「美しい自然」、「豊かな恵み」、「温かな人のつながり」を示しています。この村の強みを生かし、「人が地域を創る」という視点を大切にした「産山ならではの」魅力ある政策や教育環境整備を展開し、移住・定住の促進につなげていきたいと思っています。