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清流古座川とともに

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年10月2日更新

西前 啓市和歌山県古座川町長 西前 啓市​​

​ 古座川町は、和歌山県の南東部にあって、面積294.23km²、人口約2,400人で、土地の96%は山林で古来から林業を主産業としてきました。近隣は、本州最南端潮岬がある串本町や那智勝浦町で、すさみ町、白浜町、新宮市、田辺市とも接しています。昭和31年に古座川流域の1町4村が合併して、古座川町となりました。2級河川古座川は、流路延長56㎞、流域面積356km²で、平成名水百選にも選ばれている透明度の高い清流です。

 古座川町庁舎の2階にある町長室から、悠々と流れる美しい古座川を見ることができます。先日、全国を股にかけて営業や観光に回っている方から「古座川って本当に美しい川ですね。四万十川にも負けてないですよ」という言葉をいただきました。十数年前には、これも旅行好きな方から「四万十川流域の人たちが古座川を羨ましがっているぞ」と言われたことがあります。実際に見たことがないので四万十川との比較はともかく、子どものころからいつも共にあって見慣れてしまい、ともすれば忘れてしまいますが、本当に全国に誇っていい清流、名川だと思います。

 ここから見えるのは下流域ですが、私が生まれ育ち川遊びを楽しんできた中流域、桜の名所でもある七川ダムから北の上流域、紀南の高峰大塔山麓の源流域、大きな支流の小川流域、そして数多の支流、三尾川、添野川、平井川、成見川等々。そのそれぞれが、奇岩名峰、名瀑、四季折々の草花と相まって、独特の渓谷美を醸し出し、アユ、ウナギ、アマゴなどの川の幸を恵んでくれます。川の生物と言えば、ハゼ類、エビ類も多数種見られ、平井川にはオオサンショウウオも棲息しています。本年10月28、29日には「第18回日本オオサンショウウオの会 古座川大会」が、平井川の流れる平井地区で開催されます。

 古座川は江戸時代までは「祓い川」と呼ばれており、修験者が月野瀬という地区の川で禊をしてから、熊野の山々や寺社を回ったとのことです。今も月野瀬の集落の対岸には「祓神社」という無社殿神社があります。説明が後になりましたが、新宮市、田辺市、那智勝浦町を中心に世界遺産熊野古道が、国内外の観光客を集めています。この地域、熊野は昔も今も信仰と神秘の地であります。その後、河口の古座浦(現串本町)が繫栄を極め、それから古座川となったと聞いています。

 神事の関係で言えば、庁舎からわずかに上流にある川中島、通称河内島をご神体として、隣町の古座、古田、町内の高池、宇津木、月野瀬各地区が共催で、御舟渡御や櫂伝馬競争、獅子舞が行われる「河内祭り」は、文化庁指定の重要無形民俗文化財であります。今年は4年ぶりに7月22、23日に開催されました。

 また、古座川は昭和20年代までは物流の川で、本流の中流域に真砂という地区がありますが、この真砂を中継地として上流地域から荷車で運ばれてきた木炭などの林産物を川舟に載せて運んでいました。もちろん、木材の流送も行われていました。川舟は帰りに日用品等を積んで上ってきました。

 物流が陸送になり川舟の姿は消えてしまい、近年ではカヌーが下る姿を見ることが多くなりました。そして、昔も今もアユ漁の名所として釣り好きに知られているのは言わずもがなです。最近では、ジオパーク関連による奇岩景勝めぐり、トレッキングなどの観光客も増えています。コロナ禍で数年停滞していましたが、再び多くの方々が古座川にお越しくださることを期待しています。

 一方で、川は私たちに無上の恩恵を与えてくれますが、ときに強大な牙をむいてくることも忘れてはなりません。最近でも平成23年の紀伊半島大水害、あれだけ巨大化した古座川を見たことはありません。地球温暖化により世界的な規模で洪水が起こっている今、いつ南海トラフ地震が襲うかもしれない今、常に私たちは防災対策を怠ってはいけません。その1つとして、私は平成28年の町長就任後に、下流地域の高池に避難施設を建設しました。自然を相手に、ゴールを設定できない難しい問題でありますが、今後もさまざまな対策を講じてまいります。

 かように、防災、観光、自然保護、さまざまな課題がありますが、今後も私たちはこの清流古座川とともに歩んでまいります。