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宇宙に1番近い町

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年3月27日

鹿児島県肝付町長鹿児島県肝付町長 永野 和行​​

平成17年7月1日、高山町と内之浦町の合併により肝付町が誕生しました。当時、私は合併協議会事務局長として、合併後の「新しいまちづくり計画」の策定に携わり、新しい町の将来に夢を託した1人でもありました。

肝付町は本土最南端の鹿児島県大隅半島南東部に位置し、総面積308・10㎢と広大で町面積の80%以上を林野地帯が占め、町を2分している雄大な国見連山の山並みには国内最大級の照葉樹の原生林が残り、太平洋に面した海岸線には青く澄んだ広大な海が広がる美しい町です。

国指定の史跡や建造物、天然記念物など多くの文化財が存在し、約900年の伝統を誇る流鏑馬は、狩衣装束に綾藺笠、薄化粧の若武者が馬上から矢を放ち、国家安泰、悪疫退散、五穀豊穣を祈願する神事で、その勇壮華麗な歴史絵巻は見る者の心を揺さぶり、いにしえの歴史と文化を感じさせる、高山町。

一方、地元で「えっがね」と呼ばれる伊勢海老をはじめ、豊かな海の幸に恵まれ、日本初の人工衛星「おおすみ」をはじめ、数多くの天文観測衛星や惑星探査機などを打ち上げている内之浦宇宙空間観測所は、日本が世界に誇る研究者や技術者が集う最先端の科学技術を誇る宇宙に1番近い町、内之浦町。

いにしえの歴史と文化が香る町と宇宙に1番近い町が融合して誕生した新たな町が歩みを始めた矢先の平成18年、固体燃料の基幹ロケットM–Vの廃止が決定されました。観測ロケットの打上げは継続されたものの、訪れるJAXAや報道関係者並びに観光客は激減し、地域経済への影響も大きなものとなり、肝付町にとって大変な打撃となりました。

このような状況の中、町民の誰もが親しみと誇りを持つM–Vロケットにより打ち上げられ、7年の歳月をかけて60億㎞の道のりを旅し満身創痍の小惑星探査機はやぶさが、自らを犠牲にして地球に送り届けたカプセルが地球へと帰還したのが平成22年。日本のみならず世界中の人々に勇気と感動を与え、その「母港」肝付町も脚光を浴びることとなりました。

そして翌年、待ちに待ち焦がれていたイプシロンロケット射場が肝付町へ決定し、初号機の打ち上げは過去に類を見ないほどの盛況でした。観光客が押し寄せ、今まで混み合ったことのない道路まで車列が連なり、嬉しい悲鳴と新たな可能性への手応えを感じました。

町民が持つロケットへの愛着と誇りはとても大きなもので、大量の白煙を吐き出し閃光を放ちながらとてつもない轟音を引きずって肝付の空を突き破るロケットに、自分たちの夢と希望と誇りを重ねています。

近年、世界規模で宇宙関連ビジネス市場が飛躍的な成長を見せています。宇宙ビジネスの市場規模は、おおよそ46兆円(2020年調査)。2030年には70兆円、2040年には100兆円〜300兆円への規模拡大が見込まれています。自動車産業が全世界で400兆円ほど、それに迫る巨大産業のポテンシャルを秘めています。

リアルで巨大な産業を形成しつつある国アメリカでは「宇宙ビジネスには、かつてのインターネットの勢いがある」と言われています。

【Now it’s our turn. チャンスは巡ってきた。】

半世紀に及び脈々と受け継がれた、肝付町での宇宙開発オペレーションの全面的バックアップと、日本初の人工衛星「おおすみ」誕生の地から、宇宙産業の聖地「スペースポートおおすみ」を夢見て、射場のある町、宇宙に1番近い町を誇りに、今日も私は執務室から我がまちの未来を見据えています。