静岡県西伊豆町長 星野 淨晋
静岡県西伊豆町は、人口約7千人、高齢化率は県内トップの約52%と、少子高齢化が進んだ自治体です。
この数字はとても衝撃的で、17年前の平成の大合併直後から3500人も人口が減っています。すなわち、あと30年もすれば消滅してしまう可能性すらあるということです。
この消滅するという認識は、社人研の数字や増田レポートからも容易に想像できるところではありますが、なかなか受け止めきれず、何とかなるという空気もまたどこかにあります。
そんな西伊豆町ではありますが、昭和の合併時までさかのぼると、4つの浦と1つの山村地区の5つで構成されていました。当時は、それぞれの地区がそれぞれの文化や産業を持って栄え、特に港町の田子地区は、県内屈指のカツオ船団を構成しており、その水揚げの多さと同じように活気に満ちあふれていました。
しかし、時代の流れと共に漁船の数は減り、それに付随した造船や商店はみるみる衰退し、他地区の農業・林業・炭焼き・鉱山業なども、時代の変化と共に役目を終えたように事業が縮小されていきました。
今現在は、風光明媚な堂ヶ島観光を中心とする観光業が主産業となっておりますが、近年のコロナ禍においては、こちらも多くのダメージを受けることになりました。
ここまで読み進めると、お先が真っ暗な感じに映りますが、今の西伊豆町はチャレンジに満ちた町になろうと、新たなことに懸命に取り組んでいます。ピンチはチャンスという言葉がありますが、西伊豆町は、今が本当のチャンスの時だと思っています。
事業を行ううえでは競争相手というものが存在し、それぞれを高めあうこともあれば、存続を懸け、しのぎを削らなければならないこともあります。ましてやそんな状況下で新規参入者などが来ようものなら、言わずもがなのことであります。
しかし、後継者不足の西伊豆町では、後継者の居なくなった分野への参入は逆に喜ばれ、また、参入者に来てもらわなければならない状況でもありますので、新たな取組を行ううえでの障害はありません。
また、私が首長になった時には、高齢化率は県下№1ではあるものの、「首長は県下最年少」という面白さも加わり、いい意味で町民も新しいことに対して寛容に対応していただけたのではないかと思っております。
そんな状況下で、先ずは観光地としては知名度が低いという弱点を克服するため「ロケ誘致」に力を入れ、メディアへの露出を増やす取組を始めました。
当初は、あまり興味・関心を示されなかった方々も、CMやドラマ・バラエティー番組などに取り上げられると、いたるところでその話題で盛り上がり、「町外の知り合いから電話が来た」や、「これが縁で疎遠になっていた方との交流が再開した」など、思った以上の効果も上がってきています。
コロナ禍においては、マイナンバーカードの発行に合わせ、電子地域通貨の発行をしてみました。この事業により、高齢化率県下№1の町が、県下1位の電子決済普及の町になりました。
また、この取組の派生型として、遊漁船で釣った魚が地域通貨に換金され、地域でのお買い物や飲食で使える『ツッテ西伊豆』というプロジェクトになり、『あつ森』や『釣りスピ』というゲームの世界を体現できる取組となったことで、それを目的にした親子旅行も増えつつあります。
今後も、新しいこと・面白いことを取り入れつつ、住み続けたくなる町の基礎作りに取り組んでいきたいと思っています。
最後に、私が政治に興味を持ったのは、不祥事に対して『遺憾です』の言葉のみで、何ら総括がされない政治の姿を見たのがきっかけでした。
今現れている事象は、すべて過去に行われてきた結果でしかありません。すぐに結果が出るものもあれば、10年後にしか結果が出ないものもありますが、今の、そして未来の子供たちに、責任を持って誇れる地域や国を残していけるよう、チャレンジし続けていきたいと思います。