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真の自然との共生

印刷用ページを表示する 掲載日:2017年2月7日

福島県金山町長  斎藤 勇一
 

災害を乗り越えて

二〇〇五年が始動して、二カ月が過ぎました。豪雨や台風、そして地震の被害のなかで迎えたまちの新年がありました。市町村の合併によって誕生した新市、新町での新年もありました。

 当町は昨年七月十三日の新潟・福島豪雨と、十月二十三日の新潟県中越地震で大きな被害を受けた町です。町村合併では大沼西部三町村、そして両沼地方五町村の二度にわたる合併協議が整わずに新年を迎え、新たなまちづくりの時に直面しています。

 私は皆さんと同様に、いつも頭にあるのはまちづくりのことです。私が進めているまちづくりの一つに「妖精の里」の演出があります。町民の方々からの人気は今ひとつという課題の政策です。

妖精の里ってなんだろう

町に沼沢湖という五千年前の火山活動によって造られた湖があります。ここに大蛇が棲んでいたという伝説があります。この伝説がきっかけとなって、平成二年に妖精の里を宣言しました。

妖精物語の原話はケルトの神話と言われており、この神話には当地方にある道祖神や巨岩の信仰と同様なものがあります。

当時、明星大学で英文学の教授である井村君江先生の勧めがあって、沼沢湖畔の小高い丘に妖精美術館を造ることになりました。井村先生の妖精に関する所蔵品や町が新たに購入した妖精の絵の代表作「テンペスト」、天野喜孝先生の原画による「月夜の妖精王と妖精女王」のステンドグラスなどを展示しており、妖精のマニアにはちょっと知られている美術館です。

この美術館の開館記念には和泉元彌、和泉淳子、祥子の姉弟による創作狂言「夏の夜の夢」の上演を行いました。福島県立美術館の移動展や、アイルランドからマット・クラニッチ氏を迎えて、アイリッシュコンサートも開くなど、多くの方々に妖精と親しんでいただくための工夫をしています。また、町道橋である杢冷橋の親柱には天野喜孝先生の「春・夏・秋・冬」のモニュメントを設置しています。さらに新設の二つの橋の親柱にも妖精にちなんだ「地・水・火・風」、「天・地・東・西」のモニュメントを設置したいと計画しています。

毎年八月第一土日には、「湖と妖精のフェスティバル」を沼沢湖で開催しています。

 昨年十一月には当町に湧出する天然炭酸水をボトリングし、妖精の水として販売しています。ヨーロッパでよく飲まれているスパークリングウォーターです。また、生活雑排水の流入しないブナ林が源流の渓流の水を引いて、低農薬有機栽培で作る米を、妖精の米「大源流米」という商標登録を取って販売しています。

 二十一世紀のまちづくりに妖精が悪戯をするのか、味方をするのかわかりませんが、妖精は創造の世界の物語であり、クリエイトする時代のテーマとして価値があると取り組んでいます。

ブナの実一升金一升

 私は、作家である椎名誠先生と、映画「あひるのうたがきこえてくるよ」の制作ロケが当町で行われてたことをきっかけに交流をしています。六年前からは椎名先生が始めた「浮玉三角ベースボール」の全国大会を当町で行っています。私は子供の時に三角ベースボールを庭先や原っぱでよく行っていました。

 浮玉三角ベースボールは沖縄の浜辺で漁師たちが流木をバット代わりに持って、漁で使うプラスチックの浮玉をボール代わりに使って遊んでいました。おもしろそうだと自ら体験した椎名先生が考案した新競技です。

椎名先生とはこんなことが縁となり、一昨年は佐藤福島県知事、椎名先生、そして私の三人で「ブナの実一升金一升」と題したトークショーを開きました。当町に伝わる格言「ブナの実一升金一升」は、ブナの実一升が金一升に値するほど大事だという自然との共生を意味している言葉であり、山村豪雪地帯の金山町をよく表現していると感心をし、真の自然との共生を図りたいと町づくりに取り組んでいます。