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有事への備えは国の仕事か

印刷用ページを表示する 掲載日:2022年10月17日

藤巻進長野県軽井沢町長 藤巻  進​​

 

急に慌ただしくなった日本の国防ですが、防衛は国の専権事項であるというものの、国に任せておけば良いかを考察したいと思います。

ウクライナ戦争で一変

2月24日のロシア軍のウクライナ侵攻以降、日本の安全保障環境は一変してしまいました。中国、ロシア、北朝鮮と専制国家に囲まれた日本に、明日にも起こりうる問題として浮上してきました。ウクライナ戦争は対岸の火事ではありません。特に、きな臭い台湾海峡や尖閣問題、相手の出方によっては一触即発の危機にあります。

国任せで良いのか

地方自治の場でほとんど語られることがない安全保障問題ですが、仮に他国のミサイルが着弾したとすれば、それはすべて地方自治体である、私たちの頭上です。とすれば、自分たちの喫緊課題として1人でも犠牲者を出さない、被害を少なくするなどの備えをしなければならないはずですが、その議論すら聞こえてきません。国防の柱である自衛隊の運営や武器装備等の整備は国の仕事ですが、銃後の守りは自治体の役割であるはずです。

生き残り施策

台湾有事ともなれば、台湾に近い沖縄県先島諸島では多くの島民が避難できずに取り残される危険性があります。国防は国の仕事としても、住民の命や財産を守るのは自治体の仕事でもあります。国にすべてお任せでは、住民を守ることができないことは明白です。

私はよく、ウクライナと日本を比較します。ロシアからのたくさんのミサイルを被弾する中でも、犠牲を少なくしているのは地下シェルターが整備されているからです。では、日本はどうでしょうか。日本のシェルター普及率は0・02%で、ほぼゼロです。また、ウクライナは隣国とは地続きですので、鉄道や車、あるいは徒歩で避難できますが、日本は島国ですから避難することさえままなりません。有事となれば危機的な状況に陥るのではないでしょうか。

力を信奉する国家を前にして

ソビエト連邦崩壊3年後の1994年に、ウクライナはアメリカ、イギリス、ロシアとブダペスト覚書を交わしました。覚書はウクライナに残る旧ソ連の核弾頭を放棄する代わりに、3国はウクライナの安全を保障するものでした。しかし、保障当事国であるロシアが侵略するという、極めて由々しき事態となりました。力を信奉するプーチン大統領に国際法の遵守や人間としての良識を求めても通用しません。戦争は長期化、泥沼化の様相を呈しています。

一方、中国は周囲に軍事的に脅かす国がないにもかかわらず、この30年間で軍事費を39倍という軍事大国化を着々と進めており、近い将来、アメリカを抜くと言われています。軍事バランスが崩れると、大変に危険な状態に陥ることが予想されます。

自国は自国で守る

現実から目を背けて、「平和、平和」と理想の世界に浸りたいところですが、専制国家を前に力の背景のない理想を唱えても何の意味もありません。軍備か外交かの二者択一ではなく、その両方が求められるはずです。かといって、いたずらに軍備拡張を唱えるものではありません。独立国として最低限の自国を守る国防と同盟国アメリカとの緊密な連携が重要になることは論をまちません。

軽井沢町の備えは

軽井沢町では2017年に他国からのミサイル攻撃に備えて、廃線となった旧信越線碓氷トンネルを一時避難施設(シェルター)として利用すべく、所有者である群馬県安中市と覚書を交わしました。同時に、内閣府、長野県の指導の下に、北朝鮮弾道ミサイルを想定した避難訓練も行いました。さらに本年は、町内の鉄筋コンクリート造のホテルや寮等の民間施設40カ所に一時避難施設としての使用承諾を得ました。

戦後、日本は国防をアメリカに委ねて、ひたすら経済発展に注力し経済大国の地位を築いてきました。それはそれで誇るべきことですが、そろそろ独立国家として当たり前の国づくりをしていかなければならないのではと強く思います。