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おがり続けるために

印刷用ページを表示する 掲載日:2022年8月22日

熊谷泉岩手県紫波町長 熊谷  泉​​

 

紫波町は、岩手県の中央に位置する人口約3万3、000人の農業が主体の町であり、紫波中央駅前の未利用町有地10・7haを公民連携手法で開発した「オガールプロジェクト」により全国的に知られるようになりました。「オガール」とは、成長を意味する方言「おがる」と「駅」を意味するフランス語Gare(ガール)を組み合わせた造語です。紫波中央駅前を「紫波の未来を創造する出発駅」とする決意と、このエリアを出発点として持続的に成長していく願いが込められています。

紫波町図書館が入る官民複合施設「オガールプラザ」が平成24年6月にオープンしてからちょうど10年が経ち、今年は図書館10周年記念イベントを開催しているところです。オガールエリアではさまざまな取組が行われてきましたが、図書館について少し紹介します。蔵書数11万冊、令和3年度貸出数22万6、000冊、利用者数は4万6、800人となっています。規模は大きい方ではありませんが、司書が色々な企画展示を行っています。平成27年に「紫波町図書館調べる学習コンクール」の第1回を開催し、小学校高学年の部で最優秀賞となった作品を全国コンクールに推薦したところ、いきなりトップの文部科学大臣賞に輝きました。町の子どもたちの知的好奇心を支えるこの企画は、現在も講座を重ねながら続いています。

平成28年には、図書館の先進的な活動や市民と取り組む創造的な活動を評価する「ライブラリー・オブ・ザ・イヤー2016」において、全国で表彰された4図書館の中の優秀賞を受賞することができました。また、令和元年6月開催の「アメリカ図書館協会(ALA)年次大会(ワシントンD.C.)」のジャパンセッションにおいて、当図書館の発表の機会をいただきました。私も応援に行きましたが、50か国以上から約2万人の図書館関係者が集まる世界最大のイベントで、その規模の大きさに驚きました。

町では、オガールの立ち上げからお世話になった有識者の方々にその後もご指導をいただいており、日詰商店街を中心に開催したリノベーションスクールもその1つで、平成27年から2回開校しました。全国から大勢の方が参加し、その関係で現在も交流が続いています。実際に、閉店した美容室をリノベーションし、ヴィーガンアップルパイ&キッシュの専門店を開業した方や、古い民家を自分で改装して学生たちが集まる場所にし、最近はカフェも始めた地域おこし協力隊の方等がおり、若い人たちの感性で、小さくても面白い場を作り上げています。

町の中央を通る国道4号沿いにあった旧役場庁舎の跡地には、今年7月7日に町内企業が「ひづめゆ」を開業しました。温浴サウナを中心に、ハードサイダー醸造所、レストランが併設され、隣には県指定有形文化財となった明治31年建設の旧紫波郡役所庁舎が建っており、新旧建物が並ぶスポットとなりました。

また、現在の町の課題は、約7年かけて規模の小さい小学校の再編に取り組んだことに伴い閉校した7つの小学校の跡地活用です。明治の学制以来140年以上地域の中心であった小学校が無くなることの喪失感は大きく、それに代わるものが必要とされています。その中の1校である旧長岡小学校については、オガールプロジェクトを推進してきた㈱オガールが、吉本興業ホールディングス㈱ほか1社と㈱吉本・オガール地方創生アカデミーを設立し、地域の将来を担う人材の育成、農林業の発展、地域資源を生かした新産業の創出に向けた取組である「ノウルプロジェクト」により活用が図られる運びとなり、来年4月の開校に向けて準備を進めているところです。また、この取組に関し、内閣府地方創生推進事務局、同アカデミーおよび町の3者は、新しい地域活性化モデルの構築を目的とし、今年6月末に連携協力協定を結びました。

さらに、令和3年6月には当町出身者でIT企業を起こし東証マザーズ上場まで至った㈱エルテスが、東京にあった本店をオガールの一画に移転してくださいました。当町におけるデジタル化推進を目的に包括連携協定を結び、今年度から社員1名を町に派遣していただき、DXに取り組み始めたところです。

オガールをきっかけに現在も色々な方々に応援をいただいています。この流れをさらに広げ、「おがり」続けていきたいです。

一方、京都と奈良を結ぶ鉄道で、町内に2つの駅を有するJR奈良線につきましても、その全線複線化に向けた取組を沿線市町とともに進めているところであり、現在行われている高速化・複線化第2期事業によって、JR藤森駅~宇治駅間、新田駅~城陽駅間を始め、町内の山城多賀駅と玉水駅間の計14㎞の複線化が完了すると、JR奈良線全体の複線化率は64%となり、さらなる利便性の向上、安全・安定輸送が実現されるものと期待しております。