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渡良瀬遊水地を囲む4市2町の交流を通して

印刷用ページを表示する 掲載日:2022年6月27日

群馬県板倉町長  栗原 実群馬県板倉町長 栗原 実 ​​

都心まで約60㎞圏の我が町に隣接し、「首都圏の水がめ」とも言われ、利根川水系の洪水調節機能として総貯水量約1・7億トンを有する広大な湿原が、「渡良瀬遊水地」と呼ばれる日本最大級の遊水地です。広さ約33㎢の中には、周囲を堤防に囲まれた4県にまたがる広大なヨシ原と約4・5㎢の人造湖である谷中湖と3つの調節池があります。

谷中湖とは、遊水地の建設によって廃村となった谷中村役場跡や雷電神社跡等、当時の面影を残したことから名付けられたものです。

渡良瀬遊水地には、栃木県栃木市(人口15・6万人)、同県小山市(16・7万人)、同県野木町(2・5万人)、茨城県古河市(14・1万人)、埼玉県加須市(11・2万人)、群馬県板倉町(1・4万人)の4市2町が隣接しており、治水利水(開発)と自然保護(守旧)という相反する政策を並立実現させるため、61・5万人規模の自治体が県域を越えて協調・協力体制をとりながら、活発な自治を進めている地域であります。

例を挙げてみますと、2012年に渡良瀬遊水地がラムサール条約湿地として登録された際には、条約の目的である「湿地の保全と再生」「賢明な利用」「交流と学習」という3つの柱の実現に向け、4市2町による渡良瀬遊水地保全利活用協議会を設立しました。国土交通省や環境省との連絡協調を密にし、利根川上流河川事務所にも助言を頂きつつ、各自治体間における自由意志の尊重と交流を深めながら活動を展開しているところです。

また、遊水地内にあるヨシ原は、国産ヨシズをはじめとする地場産業に活用されています。ヨシの芽立ちと生長を良くし、病害虫を駆除するため、毎年3月には15㎢の区域で「ヨシ焼き」を実施しています。初春を代表する風物詩として定着しており、写真愛好家や見物者が多く来訪する珍しい観光行事となっています。ヨシ焼きによって灰に埋もれた焼野原から1、000種以上の植物の芽が伸び始め、大湿原が緑の絨毯のような景色へと移り変わる季節になると、チュウヒやオオヨシキリなど58種の絶滅危惧種をはじめとする約260種の野鳥の姿を多く見ることができるようになります。多数の動植物が生息・生育し、豊かな生物相を維持していることから、環境学習の場としてはもちろんのこと、環境保全のバロメーター的な在り方としても期待されている反面、生息頭数の増加しているイノシシ対策が問題になっていたりもします。

近年では、サイクリング、マラソン、トライアスロン、ウインドサーフィンや熱気球等、都市圏にある自然公園としての多様な利活用の1つとして期待され、知名度も上昇しているようです。

さらに、渡良瀬遊水地から少し離れた水田の広がる場所には、全国で唯一といえる「歩いて三歩で回れる平地の三県境」があり、新たな観光スポットとして来訪者も徐々に増加しつつあります。

令和元年東日本台風(台風19号)では、栃木市や佐野市をはじめ、周辺地域においても甚大な被害を受けました。板倉町においても、利根川と渡良瀬川の水位が決壊の危機に直面するほどまでに上昇し、約70年前に甚大な被害をもたらした「カスリーン台風の再来」ともいえる恐怖を体験しました。その際、本格運用前の試験湛水を実施していた八ツ場ダムの洪水調節効果と渡良瀬遊水地の貯留効果で河川堤防決壊による大惨事を防ぐことができたということを踏まえ、国に対して、4市2町による流域治水事業の促進に関する要望活動を2年前から行っており、渡良瀬遊水地の掘削による貯留容量の増加をはじめとする洪水調節機能のさらなる向上を求めているところです。

これらの例に挙げるとおり、渡良瀬遊水地と周辺自治体のかかわりは、県域を越えて共通する部分が多いことから、「治水の要」「自然環境保全の試験地」という2つの役割が求められている「ラムサール条約登録湿地 渡良瀬遊水地」を媒体として、4市2町という自治体の枠を越えた広域連携の必要性を群馬県側は板倉町から強く発信し続けてまいります。