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地場産業の振興と多業種間連携による活気あるむらづくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2022年5月30日

奈良県町村会長・天川村長奈良県町村会長・天川村長 車谷 重高 ​​

天川村の紹介

「悠然とそびえる霊峰に見守られ自分をリセットしたり、アップデートしたり。心を満たしたくなったらいつでも奈良県天川村へ」天川村は歴史ロマンの郷でもあり、天武天皇(大海人皇子や)、南北朝時代の後醍醐天皇をはじめとした南朝方の歴代天皇、弘法大師空海、円空など歴史上多くの人々がこの地を訪れ、秘められたいにしえの物語は今も息づいています。また、村の面積の4分の1が吉野熊野国立公園に指定されており、近畿最高峰の八経ヶ岳(1、915m)やおよそ1300年前に役行者によって開かれた修験道発祥の地である霊峰大峯山(山上ヶ岳)を擁し、これらを源とした洞川湧水群は環境省名水百選に認定されています。この地で暮らす人々はいにしえから山岳や自然に対し畏敬の念を抱き、2004年にはユネスコ世界文化遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」として登録されるなど、自然・歴史を大切に村づくりを推進している天川村の展望をご紹介させていただきます。


新たな地盤産業・雇用の創出

本村は標高約600m以上の高地に属しており夏の冷涼な気候を利用し、平成29年度から四季成イチゴ(夏イチゴ)の試験栽培に取り組んでいます。県内外の洋菓子店や喫茶店などで販売しており、今後はさらに希少価値を高め「天川村ブランド」を確立するとともに、安定的な生産を目指し雇用人口の拡大につなげます。

また、きれいな水環境を利用したトラフグの陸上養殖にも取り組んでいます。令和元年度から試験養殖を始め試行錯誤を繰り返し、令和4年3月には約400匹が出荷できる大きさに成長しています。今後は養殖規模を順次拡大し、生産されるトラフグの販路として地元旅館や商店、市場などとも連携を図り、新たな雇用の場としての確立を目指します。

ありがたいことに、本村の山と川、豊かな自然を求めて年間60万人もの観光客が訪れます。村内には、旅館や飲食店、キャンプ場などが多数ありますので、夏イチゴやトラフグの販路については将来的には観光業と連携することで相乗経済効果を目指します。


林業を軸とした地域内経済循環

林業は本村の基幹産業でありましたが構造的不況が続き、林業従事者数は昭和45年に635人であったのが令和元年には195人となり、最盛期の3分の1に減少していますが、実感としてはもっと少ないように感じます。林業は、このまま何もしなければ衰退を免れません。そこで、平成28年に(一社)天川村フォレストパワー協議会を立ち上げ木質バイオマス燃料生産工場を整備し、民有林から出材される間伐材を地域振興券で買い取り、その間伐材で生産した薪を村内の温泉施設等の薪ボイラーで燃料として利用しています。民有林の間伐を促進し森林施業の活性化を図りつつ、間伐材を軸とした地域内経済循環を確立するとともに脱炭素社会への取組も推進します。

また、地元の漢方薬「陀羅尼助」の原料となるキハダを育てるプロジェクトも進めています。令和元年から農林水産業みらい基金事業により、将来的に地元産のキハダを使って陀羅尼助の生産をするべく、約10ヘクタールの伐採跡地にキハダの植樹を行いました。さらに、SDGsや脱炭素社会に関心が高まるなか、令和3年には三井住友カードやグローバルファッショブランドUGG(アグ)などの企業と「多様性ある森づくりに関する協定」を締結し、約18ヘクタールのキハダなど広葉樹を中心とした多様性ある森づくりを展開しています。これらを通じ、企業や他市町村に森林資源に関心を持ってもらい関係人口を増加させ、他方では森林環境譲与税などの財源を有効に活用して、林業技術の習得を目的とした森林塾を開校し林業後継者の育成に努め、将来にわたり持続発展的な林業振興につなげていきます。


小さな村ならではのきめ細かな行政

本村は人口約1、300人の小規模な自治体であり、少子高齢化・過疎化は厳しい現実ではありますが、そのような中でも、総務省の地域おこし協力隊事業などを積極的に活用し、意欲ある人材を発掘し、農林水産・観光業などで新たな産業の創出にチャレンジし雇用の場の拡大につなげています。

また、令和3年7月には旧校舎跡地を利用した高齢者介護施設「もみじの里」をオープンし、令和4年4月には幼保一体型保育施設として「天川保育所」を開所する予定です。小規模な自治体であるからこそ、村民1人1人の顔が見える関係であり、価値観が多様化する中で、もともと村で暮らす方も、移住して来られる方も、全ての村民のニーズに応えていけるようスピード感をもって、きめ細かな行政を推進していきたいと考えます。