福岡県大木町長 境 公雄
財団法人ひしのみ国際交流センターは、町民・事業所・町が連携して、これからのまちづくりを担う人材を育成する目的で、平成2年に設立されました。運営はふるさと創生基金から町が5千万円出資し、その運用益と町民会員や事業所会員の賛助会費、町の補助金が当てられます。原則2か月間一人旅を条件に研修生を募集し、研修計画や目的が適切である場合は、100万円を上限に交通費や滞在費が支給されます。現在まで約60名の研修生が世界各地で研修を行い、町内外で国際感覚を持った人材として活躍しています。私も平成3年にドイツを中心にヨーロッパ諸国を1人で廻り、ドイツや周辺国のまちづくりや人々の暮らし、価値観を直接肌で感じて、カルチャーショックを受けて帰国した研修生の1人です。その経験が行政職員としてのその後のまちづくりの源となり、町民の皆さんとの協働による先進的な環境施策の数々を実現することができました。
ひしのみ国際交流センターの活動=町民・事業所・町の協働による人材育成の仕組みは、大木町の協働のまちづくりの象徴であります。
さて、大木町は、人口約1万4、000人、面積18・44㎢、筑後平野の中心部に位置し、キノコや苺、アスパラ生産など農業が盛んで、掘割が町の面積の14%を占める自然豊かな町です。合併を選択しなかったコンパクトな町のサイズは、住民と行政の距離が近く、協働のまちづくりを進めるうえで最適な条件であり、それは大木町の強みになっています。全国町村会100周年記念大会の講演で、東京大学大森彌名誉教授が「町村の小さいことに大きな意味がある=スモール・イズ・ビューティフル」と言われたことがとても印象的で、小さい町だからこそできること、それはこれからのリスク社会に対する最も効果的な備えになると感じています。
ところで、憲法第92条で謳われている地方自治の本旨において地方自治の在り方は「団体自治」と「住民自治」の2つの要素から成立し、これらはしばしば「車の両輪」として例えられています。しかし、地方自治の発展にとって、特に住民自治は(住民の意思と責任に基づいて行政を行う原則のこと)その成熟が求められているといわれています。これまで大木町が進めてきた協働のまちづくりは、住民を巻き込んでさまざまな取組を行ってきましたが、地方自治の本旨に則った住民の意思と責任が反映されてきたのか、少し自信のないところであります。協働のまちづくりをより発展させていくためには、住民や地域が自立し、行政と対等な関係を築くことが必要ではないか。そのためには、まずは町内の行政区(主に集落単位)における自治会の設立が不可欠だと判断しました。現在は行政区長制度により町の補助的業務を担っていますが、これは円滑な行政運営を目的にしたどちらかというと行政目線の地域制度であり、地域住民の間に明確な自治意識を育てるものとはほど遠いと感じています。一方で、祭りやイベント、防犯・防災活動などの地域活動は、全体として衰退してきており、地域の絆が希薄化しつつあります。人口減少や高齢化、気候変動の影響による災害の頻発など深刻さを増す地域課題に対する最大の備えは地域の絆であり、地域住民が日常的に協力し助け合う共助社会を作ること、そのためには地域自治活動の活性化が不可欠だと感じています。私の町長としての最大の役割は、地方自治の本旨に則った、持続可能な町のイメージを具体的に掲げ町民と共有すること。町の細胞である自治会・校区単位で地域自治を担う校区自治組織・行政の発展的な関係を築くことが協働のまちづくりの目指す姿であり、その実現に向けて全力で取り組んでいきたいと思っています。