ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > 町村長随想 > 今、行政に必要なのはスピード感と説明責任

今、行政に必要なのはスピード感と説明責任

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年12月13日

茨城県境町長茨城県境町長 橋本 正裕​​

境町は、茨城県の西南部、江戸川と利根川の分岐点に位置し、利根川を渡るとそこは千葉県という県境にあります。江戸時代は水運の拠点として栄えました。人口は約2万4、000人、どこにでもあるような地方の町です。そんな境町で、令和2年11月26日、自治体では全国初となる自動運転バスの公道定常運行が開始されました。運賃は町民の方ならだれでも無料、費用は1年間1億円、5年間で5億円の予算を見込んでいます。

自動運転バス導入のきっかけは、令和元年の11月末、ニュースサイトで自動運転の記事を発見したことでした。そこから年明けすぐの1月議会で予算の承認を得て運行を決定しました。ここまで1か月と少しというスピードです。5億円は決して小さい金額ではありません。議会からも、費用対効果はあるのか、運行の安全面の不安など心配の声が出ました。それでも即決したのには訳があります。

当町は鉄道の駅がなく、路線バスも本数は沢山はありません。地方においては公共交通の維持が難しくなり、お年寄りが運転免許を返納したくても出来ないという時代になりつつあります。少子高齢化が全国的に進む中、境町でも遠くない未来、車で出かけられず、買い物にも病院にも行けない方が増えるでしょう。このままでは、いつか住み続けられない町になる。技術が革新するのを待っていては取り残されてしまう。本当に困っている人を救うには、今すぐやらないといけない、という思いから自動運転バスの導入を決めました。運行開始から1年が経ちましたが、おかげさまで無事故で、多くの方に利用をいただいており、地域の生活の足として根付きつつあるのを感じています。そして、5年後の未来には、「横に動くエレベーター」として利用され、だれもが生活の足に困らない街を実現できる、そう考えています。

本事業の財源にはふるさと納税の寄付金を活用しました。私が町長に就任する以前、境町のふるさと納税の寄付金は6万円でした。就任してすぐ、財政改革などに取り組んだ際、岐阜県各務原市がふるさと納税の寄付額を大きく伸ばしていることに注目しました。そこで、視察に伺い、やり方を勉強させていただきました。その結果、順調に寄付額を伸ばし、令和2年度は、37億円の寄付金をいただいています。境町で人気のある返礼品は、1位お米、2位牛肉、3位野菜と、おいしさに自信はありますが、特別なものはありません。やり方を学ぶことで、多くの寄付額をいただけるようになったのです。

また、境町では、人口減少に歯止めをかけるため、5歳から中学卒業まで、ネイティブの英語教師と無料で英語が学べる「スーパーグローバルスクール事業」をはじめとする教育制度の充実、子育て世帯に向けた支援政策や移住・定住政策などを手厚く展開しています。ここでも、山形県東根市や兵庫県明石市、北海道東川町、千葉県流山市など、子育て支援や人口増加政策で優れた自治体に学びました。その結果、境町の人口の社会動態は平成27年1月から令和2年12月の間に、205人のプラスになりました。

平成26年3月に町長に就任して以来、沢山の取組を行ってきました。取組を通じて感じたのは、先行事例に学び、それを境町版に落とし込むことで必ず効果が出る、ということ。そして、行政に必要なものはスピード感と説明責任、だということです。地域住民や町の未来のためになることは、しっかり説明して合意形成を図る。議会や住民が同じ方向を向くことで、スピード感をもって政策を実現することが可能になるのです。

境町は小さな自治体です。境町で行っている取組はどこの自治体でも真似ができるものです。境町を一つのモデルとしていただくことで、多くの地方の課題を解決する糸口になるのではと思います。現在、境町の取組について視察をしたいというお申し出を沢山いただいております。きっと皆さまの地域の課題解決のヒントになると思います。ぜひ一度、境町に視察にお越しください。お待ちしております。