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光を追いかけて

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年8月9日更新

秋田県井川町長秋田県井川町長 齋藤 多聞 ​​

1991年9月10日午後6時半頃、秋田県内の広い地域で「正体不明の光る物体」が多数目撃されました。目撃情報によれば、その物体はオレンジや青白い光を発しながら天頂から垂直に落下したり、点滅して水平に移動したりしたそうです。その翌朝、本町の田んぼではミステリーサークルが発見されました。これは地元新聞や週刊誌にも記事が掲載された紛れもない事実です。当時小学4年生の私は、実のところ、未確認飛行物体(UFO)やミステリーサークルが出現したといった話を聞いた記憶が全くありません。今と違いスマホやSNSがない時代とはいえ、小さい町で起こった不思議な出来事が子どもたちの間で話題にならないはずがないと思うのですが……。

今から約4年前、東京から一人の男性が、UFO出現の事実を元に本町を舞台とした映画を撮りたいと訪ねてきました。話を聞けば、脚本や監督を自ら行うこと以外、具体的なことは何一つ決まっておらず、まずは地元の首長に話を聞いてもらい、資金集めも含めて全ての準備はこれから始めるとのことでした。何も決まっていないにもかかわらず、とにかく映画を撮りたいという熱意に負けたのか、話が終わる頃には、私も「町PRの映画は要らない。作品として良いものを作ってくれるのであれば協力したい」と答えていました。

今秋、本町をメインロケ地とした映画『光を追いかけて』が公開されます。(全国公開10月1日〜)過疎化が進む秋田県の架空の町「鷲谷町」を舞台に思春期の少年少女の葛藤や心の成長を描く物語で、町内の田んぼに忽然と現れた謎の光とミステリーサークルがストーリー展開の鍵となっています。監督・脚本は、4年前に私を訪ねてきた成田洋一さん。主人公の中学生を中川翼さん、長澤樹さんが演じるほか、秋田県出身の柳葉敏郎さん、生駒里奈さんが出演しています。撮影は一昨年2019年秋ですから、監督から構想を伺って撮影までに約2年、そこから公開に至るまでさらに2年がかかっています。監督が映画を撮りたいとツテもないところから始めたこの映画は、撮影までに何度も脚本が練り直され、紆余曲折があったものの、それに伴い支援者や手伝ってくれる仲間が少しずつ増えてきました。撮影後はコロナ禍により資金集めが予定通りとはいかなくなっただけでなく、映画を含むエンタメ業界にも今もなお深刻な影響もありますが、いくつもの課題を乗り越えて、ようやく公開が近づいてきました。

公開に先駆けて、映画スタッフの試写会に参加しましたが、地元の何気ない風景が映画を通してみると余りに美しく、身近な風景も視点が変わればこれほど違いがあるのかという驚きと発見がありました。オール秋田ロケで秋田県の話ではありますが、映画では地方が抱える課題や田舎の現実が痛いほど描かれており、どこに暮らしていても、自らの人生や故郷を考え、思いを馳せるきっかけになる映画になっていると思います。さらには、主人公の父親は、東京で夢破れて帰郷し、町のために頑張るものの空回りする役場職員という役どころ。劇中では、行政職員やまちづくりに携わる方には、耳が痛い言葉もでてきます。子どもは地域の宝と言いますが、その宝を光らせるのは、大人や周囲の環境が大事なことは言うまでもありません。人口減少、少子高齢化等をはじめとする課題は多かろうとも、今ここで大人たちが頑張らなければ、地域の未来は輝きません。一人でも多くの方に、この映画をみていただき、明日を生きる力にしてほしいと思います。

地域、行政としては、映画公開がゴールではなくスタートです。子どもたちの記憶に残るだけでなく、この映画をきっかけにより良いまちづくりにつなげるべく取り組んでいかなければと思いを強くしています。