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水のような好循環の町を目指して

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年5月10日

富山県入善町長富山県入善町長 笹島 春人​​

明治16年の富山県誕生のため、当時の石川県からの分県活動に力を尽くした「分県の父」米澤紋三郎氏の出身地である入善町は、県東部を流れる一級河川黒部川が、長い年月をかけて作り上げた日本屈指の大きさと美しさを誇る黒部川扇状地に位置する水の町です。

入善町には3つの水の恵みがあります。

1つ目の恵みは清浄な水です。扇状地を流れる清らかな水は、町内のいたるところに整備された農業用水路を経て、町を潤し、大地の実りを私たちに与えてくれます。

農業はコシヒカリ等の水稲が主力ですが、そのほかに町を代表する特産として「入善ジャンボ西瓜」があります。ラグビーボールのような楕円形で重さは15㎏から大きいものでは25㎏にもなる、シャリシャリとした食感と甘さを誇るこの西瓜は120年の伝統があり、夏を彩る特産品として全国に出荷されています。

2つ目の恵みは、豊富な地下水です。黒部川の水は、扇状地の地下を伏流水となって流れることで浄化され、清らかな湧水となって自噴しています。この湧水は「黒部川扇状地湧水群」として、昭和60年に環境庁から全国名水百選に選定されています。

町内のいたるところでこの名水が湧き出ることから、町には上水道はなく、人々が日常で使う水は、すべて地下水です。さらに、この豊かで清らかな地下水を求めて、飲料メーカーや電子部品、自動車関連などさまざまな企業が進出し、人々の暮らしに潤いを与えています。

3つ目の恵みは、入善沖の水深384mからくみ上げる海洋深層水です。深層水は年間を通じて低温で安定していることや、清浄性、富栄養性といった特性があり、水産業をはじめ、食品や医療、健康産業などさまざまな分野で研究・利用されています。

平成13年から取水を開始して、今年でちょうど20年を迎えますが、取水当初は試行錯誤の繰り返しでした。

現在は、深層水の低温安定性を工場の冷房エネルギーに利用したパックご飯製造企業が進出し、さらにこの工場で熱交換によって加温され適温となった深層水で、牡蠣の浄化やアワビの畜養を行うなど、コストを抑えて環境に配慮した多段的な活用が実現しています。

また、深層水と町の地下水を活用した陸上でのサクラマス養殖試験をはじめとしたさまざまな研究も行われるなど、河川、地下水、深層水の3つの水は、町の環境や暮らし、産業などの持続と発展に大きく寄与しています。

このように水の恵みに溢れた入善町ですが、他の自治体と同様に、人口減少という大きな課題への対策が急務となっています。

そのため、町では「ストップ人口減少」をまちづくりの基調として、「子どもを産み育てやすい環境づくりによる出生数の増」「健康寿命の延伸による人口の自然減の抑制」「IターンやUターンの促進と地域活性化による人口の社会増の推進」の3つの柱を掲げ、事業を展開しています。

代表的なものとして、結婚とそれにつながる出会いを、町をあげて支援する「それ行け!結婚プロジェクト」や、老若男女を問わず、健康な食生活の定着を図る「減塩いいね!プロジェクト」。移住希望者を検討段階から移住後までサポートする「安心移住プロジェクト」があります。

このような取組は、すぐに成果がでるものではありませんが、最近は町民の皆さんからも人口減少に対する危機感や、その克服に向けた機運の高まりを感じており、夢と笑顔があふれるまちを町民一丸となって目指すことができるものと考えています。

最後に私事ですが、私は町役場の職員として38年間奉職したのち、町議会議員を経て町長に就任しました。職員時代から、生まれ育ったこの町を少しでも前進させたい、もっと良くしていきたいという思いで、まちづくりに取り組んできました。私のスローガン「もっといい街、住みよい入善」はこの思いを込めたものであり、これからも入善町で「暮らし」「働き」「結ばれ」「産み」「育てる」といった水のような好循環の実現を目指してまいります。