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議員と首長

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年3月22日

広島県安芸太田町長広島県安芸太田町長​ 橋本 博明

安芸太田町長に就任して10ヶ月が経ちました。10年前に衆議院議員を一期務めさせていただいたのち、ご縁があって広島県で最も人口が少なく、最も高齢化が進む本町に移り住んで4年。前町長の急な辞任を受け、想定外に早まった選挙を経て、町長として目の前にある課題に夢中で取り組んできたこの期間は、あっという間に過ぎた印象です。

私は国会議員を経験し、またその前には公務員として霞が関で働いていたことから、行政の仕事の進め方についても(地方行政とはいえ)それなりに予備知識は持っているつもりでした。

確かに仕事を進めるにあたって過去の経験が役に立っていることは間違いないのですが、実は日を追うごとに、首長と議員の仕事の違いを強く感じています。

特に衆議院議員の場合、日々の活動の多くは選挙を意識したものとなります。中でも若手の国会議員に求められるのは次の選挙に勝ちあがることであり、そのためには東京で政策立案を行う暇があれば地元に戻ることが求められます。もちろん、地元の声を聴くことは重要な仕事ですし、党勢の拡大は自分が進めたいと考える政策の実現に直結することでもありますので、決して間違った行動だとは思いませんが、結果的に活動時間のほとんどは(選挙運動的な)政治活動で占められることとなります。

他方、首長はというと、具体的な政策を立案し、実行することこそが求められる役割であり、町民村民の声をお聞きすることも重要な要素ではありますが、それを踏まえて具体的に何を実行するかが問われます。

つまりは街頭で拡声器を持って喋ったり、支援者宅を訪問する活動が影を潜め、屋内で担当部署と政策を議論したり、関係団体との意見調整を行う活動に取って代わったわけです。

また、政策立案も、議員であれば自分が関心のある分野に専念することができます。もちろん世間的に大きな関心が持たれている課題については適宜勉強もしますが、そんな問題でも同僚議員の誰かが関心を持って取り組んでいれば、その人物の判断(場合によっては所属する党の判断)を頼りに行動することができます。

首長はそういうわけにはいきません。自分の関心の有無にかかわらず、生活に関するあらゆる政策に取り組む必要があります。もちろん、首長の場合にはそれぞれの課題を担当する職員が業務の補完をしてくれるわけですが、最終的な判断はあくまでも首長個人の責任において行われます。

結局、議員は複数存在しますが、首長の場合、自分と同じ立場の人は世の中のどこにもいないというのが最大の違いなのでしょう。頭では理解していたつもりですが、実際にその立場に置かれて、月日が経てば経つほど、その意味を強く感じています。

そんな時、相談できる先輩首長の存在は大変大きなものがあります。もちろん、自分と同じ状況に置かれている人物などいないのですが、同じ苦悩を理解してもらえるという意味では、これほど有難い存在はいません。また、この町村週報の『随想』も、そうした先輩首長の考え方や姿勢、政治信条やお里自慢、時には政策判断における実際の苦悩なども垣間見える大変ありがたい存在です。

本寄稿が出るころにはどの町村も来年度の予算がまとまっているころだと思います。私にとっては初めての予算編成ですが、この予算はコロナ禍による社会変革にいかに対応するのか、各町村長の諸先輩方がそれぞれ悪戦苦闘しながら、知恵を絞られた結晶のようなものだと思います。

本町の最大の課題は過疎です。多くの諸先輩方が取り組みながらも、残念ながら歯止めをかけることができていません。私も、新人ではありますが、私なりの経験や人脈を使って、これまでにない新しい取組にチャレンジできないか、10ヶ月間取り組んでまいりました。まだまだ先は見えていませんが、コロナ禍により日本社会全体が大きく変わろうとしている中、この変化を逆手にとって過疎化に歯止めをかけられないか、先輩方の苦悩や工夫をしっかり学ばせていただきながら、全力で取り組む覚悟です。