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水源の町として

印刷用ページを表示する 掲載日:2020年12月7日

吉賀町長島根県吉賀町長 岩本 一巳

私達の暮らす吉賀町は、島根県南西端に位置し西中国山地の脊梁地帯に開けた総面積336・5㎢、人口は約6、200人の典型的な中山間地にある小規模自治体です。平成の大合併の流れの中で平成17年10月に2つの町村の対等合併により誕生し、全体の9割以上が山地で水と緑に囲まれ、四季折々、風光明媚な農山村地域の町です。小さな町ですが、これまで多くの著名な芸術家を輩出してきた町でもあります。文化勲章受章者で世界的ファッションデザイナーの森英恵先生や、東京芸術大学学長を務められ、東京スカイツリーデザイン監修をされた澄川喜一先生などがご生誕された地であり、私達が誇れる町の宝です。

そして、もう1つ宝物があります。それは、当町に水源を有する一級河川「高津川」です。この川は、上流域である当町から中流域の津和野町、そして下流域の益田市を経て日本海に注ぎ込む流長81kmの清流です。国土交通省が定める水質日本一の称号を7度獲得した流域の皆さん共有の財産です。時としてこの川から水害と言う試練も受けますが、それは私達に生きる術を与えて頂いているものと理解し、さらに多くの恩恵を受け地域づくりにも活用しています。「水源の町」として取り組んでいる施策の一例をご紹介したいと思います。

まず1つ目は、少子化対策です。この川の水を活用して小水力発電所を運営しています。国の固定価格買取制度に移行し、これによって得られる年間約6、000万円の売電量を財源に、平成27年度から学校給食費、保育料、高校生までの医療費について全てを完全無償化しています。また、サクラマスプロジェクト事業にも取り組んでいます。この川の渓流に生息する降海型の山女魚(ヤマメ)は、一旦海に下り、沢山の栄養を蓄え、その一部が再びこの川にサクラマスとして帰ってきます。当町で生まれ育った子供達もこの山女魚と同様に、進学や就職で一度は都会地に出てもいずれ立派な社会人として帰郷し、町の将来を担う後継者になってもらうことを念頭に実施している事業です。

2つ目は、交流人口や関係人口促進に向けた取組です。当町は、観光地ではありません。しかし、川をはじめ素晴らしい自然や伝統文化があります。これら町内に点在し光り輝くものを繋いで、町外・県外の皆様との交流促進を図ることに尽力しています。昨年4月には、日本を代表するアウトドアメーカーである株式会社モンベル様と包括連携協定を締結し、さまざまな仕掛けを模索しているところです。水の美味しいところには、必ず美味しい食があります。当町でも有機野菜や米など少量多品目ではありますが、全国へ自慢出来る食材も豊富で、食育にも取り組んでいます。私も自ら職場に持参する弁当作りに食育活動の一環として挑戦し、今年で10年目になりましたが、その弁当にもおかずとして自家製野菜などを使用しています。

3つ目は、情報発信への活用です。昨年、町をPRする統一ロゴとキャッチコピーを地元唯一の高校である吉賀高校生徒の皆さんに作成してもらいました。作成に際して素材にしたものは、やはり高津川でした。完成したロゴは、基調色が水色、波紋で町の広がり、ウォータークラウンで町の飛躍をイメージし、キャッチコピーは「水とすむまち吉賀町」です。(図参照) その傍らには、こんなメッセージが添えられていました。『日本一の清流の原点を持つまち、吉賀町。この透き通った良質の水からは、雄大な自然、心洗う景色、豊かな感性、そして笑顔の輪が広がっている。澄んだ水と共に住む。心も体も源から「うつくしく」なれるこのまちから、幸せの「ひとしずく」が、あなたに届きますように。』こんな心温まるメッセージに誰もが癒されます。

この高津川に代表される自然環境と共生することを前提として、町づくりの将来像を「自然の恵みに育まれ、人と共に生きる自立発展のまち」と定めました。「水源の町」として、この将来像を必ず実現すべく住民の皆さんと歩みを進めてまいります。