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基礎自治体の誇り ~小さいことほど丁寧に、当たり前のことほど真剣に~

印刷用ページを表示する 掲載日:2020年4月20日

徳島県石井町長  小林 智仁徳島県石井町長  小林 智仁

石井町は、昭和30年に1町4村が合併して誕生した町で、いわゆる平成の大合併には参加せず自主自立の道を選び、平成27年に町政施行60周年を迎えました。町の北側には、日本三大暴れ川のひとつ、四国三郎の異名を持つ吉野川が流れ、往事は藍作が盛んに行われていました。

町域面積は28・85㎢、東西約6km、南北約5・5kmのほぼ正方形のコンパクトな町となっています。

現在の基幹産業は農業で、一年を通じて比較的温暖な気候に恵まれ様々な農作物が生産される一方、県都・徳島市の西隣に面している立地条件からベッドタウン化も進み、令和2年1月現在で約25、800人の住民が暮らす町へと発展してきました。

私は、石井町生まれの石井町育ちで、町議会議員を経て、平成27年5月に36歳の若さで町長に就任しました。当時、中国四国地方では最年少の町村長で、全国でも10番目の若さだったと記憶しています。

就任した年が地方創生総合戦略の策定時期であったため、直ちに策定に取りかからなければなりませんでしたが、やる気がみなぎる一方で、不安も多くありました。

というのも、役場の幹部職員は全て私より年上の方ばかりで、あるいは親と同年代という方もいるなか、36歳の若者を信用して一緒に仕事をしてくれるのだろうか、組織としての指示系統が確立できるのだろうかなどの懸念があったからです。

しかし、その懸念は、就任後比較的早い段階で杞憂だったことが分かりました。幹部職員はもとより、職員が私の立場を尊重すると同時に積極的なサポートを行いつつ、町政を前へ前へと進める努力を共に行ってくれたからです。そして、それこそが、町民の方々が私に与えてくれた力だと改めて認識しました。

職員に直接聞いたことはないですが、実績も何もない私自身を最初から信用してくれたとは未だに思っていません。しかし、そのような状況でも、組織体制を崩さず共に歩んでくれたのは、私を選んだ住民の方々を信用しているからだと思っています。

当然のことですが、町長は住民の直接選挙によって選ばれます。そして、選ばれた後は、住民の方々の想いや声を背負いながら、役場職員と共にこの町の10年先、20年先を見据えつつ、4年間で成果を出していかなければなりません。そのためにはまず、首長自身が地域を知ることが必要です。

私自身、前職の町議会議員の時から数えると、10数年で町内約1万戸全世帯をくまなく8回は訪問しています。それ故、いまでは町民の方の名前を聞けばどこに住んでいるのか、玄関の位置や前面道路がどのくらい傷んでいたのかなど、ある程度のことは分かるようになってきました。

地域を知ればおのずとやるべきことも見えてきます。しかし、やるべきことも住民の方々との信頼関係が築けていなければ、成し遂げることは出来ません。なぜなら、この町の主役は行政ではなく、ここに住んでいる町民の方々だからです。

基礎自治体である市町村は住民の方々と非常に近い距離で日常を送っており、毎日のように大小様々な相談事が住民の方々から寄せられます。その内容は、業務に関することはもちろん、近所内のいざこざや相続など家庭内のトラブルを含め多岐にわたりますが、どの相談もすべて、当事者たる住民の方々にとって解決したい事柄ばかりです。

傾聴・共感を行いつつ、住民と共に解決方法を模索しながら信頼関係を築き、官民一体となって住民福祉の向上を目指す。住民に最も近い基礎自治体だからこそ出来ることですし、その成果を目に見える形で実感することが出来る特権を持っていると思います。

少子高齢化、人口減少社会を迎えている現在、行政として、やるべきこと、やらなければならないことは数多くありますが、私は常に「小さなことほど丁寧に、当たり前のことほど真剣に」の言葉を原点に、役場職員と力を合わせ、住民の方々と共に歩んでいきたいと思います。その歩みが、地方創生に繋がると信じて。