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空き家対策で思うこと

印刷用ページを表示する 掲載日:2020年4月13日

新潟県弥彦村長 小林 豊彦新潟県弥彦村長 小林 豊彦

昭和50年代半ば、当時勤めていた新聞社の海外特派員としてカナダ・トロントに駐在したことがあります。家族同伴だったこともあり一軒家を借りていました。3年間の駐在期間中1回の引っ越しも経験しました。「国が変われば価値観も変わる」とその時、納得させられたことがあります。

それは、土地に対する価値観でした。当時の日本では土地・建物は不動産とみなされており、私自身も疑いもしませんでしたが、カナダでは違っていました。若い夫婦二人の時代はアパート、または小さな一戸建ての家に住み家族が増えるに伴って大きな家に移り、子供たちが独立した後は再び小さなところに引っ越す。家族構成に合わせて住む大きさを変えていく。それが一般的でした。土地・建物は動産でした。

それに比べ、当時日本の一般的なサラリーマンは30年もの長期ローンを金融機関と組んで多額の借金をしてマイホームを手に入れることが当たり前のことでした。定年後は自宅が老後を保証する、財産だったからです。それが今、全く変わってきています。

地方だけでなく、大都会でも空き家が目立ち始めています。特に田舎は増え続け、地域にとって大問題となってきています。弥彦村でも頭の痛い問題で、しかも有効な解決手段の見つからない厄介な行政課題であることは勿論のことです。村でも空き家バンク、不動産業界とのタイアップなどそれなりに取り組んできました。しかし、効果は上がりません。

個人用住宅としての土地、建物に対する価値観が昭和の時代とは大きく変わったことが、根底にあると思わざるを得ません。現在の状況を見ると、極めて恵まれた立地条件のところを除き、土地・建物は財産ではなく負の資産に転落したとしか言いようがありません。

現在の民法の下では、家を中心とした家族制度は崩壊しています。さらに、日本人の特性なのかどうかわかりませんが、若い人が新居を構えるとき立派な親の家があるにもかかわらず敷地内に若夫婦用の新居を建築するケースを多々見かけます。この慣習が今後簡単に変わるとは思えません。

私は空き家の有効活用を目的とする現在の空き家対策に、疑問がありました。昭和30年代からの高度成長の時代であったならうまくいったのでしょう。持ち家が人生最大の課題と言われ、皆必死になって自分の城確保を目指していたからです。

それが、需給関係からみても、すでに最大の課題とは言えなくなっています。高望みしなければ手に入る時代になったからです。これから、ますます少子化が進みます。それは同時に古くなった住宅に対する需要が一段と縮小することに繋がります。

弥彦村は総合戦略の見直しの一環として人口推計の見直しをしました。現在20ある大字それぞれの20年後の人口を推計しました。村として初めての取組でした。結果は衝撃的でした。25年後に人口がゼロになる地域がはっきり示されたのです。住む人がいない集落。それは同時にそれまでの家がすべて空き家になるということです。

私は空き家対策を抜本的に考え直さなければ解決できない、と思っています。少なくとも空き家は資産ではなくなったというところから構築する必要があると思っています。自治体だけでは到底無理です。国も一緒になって乗り出すことが大事だと思っています。全国の町村の皆さんはいかがお考えでしょうか。