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真に町民本位の町へ

印刷用ページを表示する 掲載日:2020年1月27日

岩手県矢巾町長  高橋 昌造岩手県矢巾町長 高橋 昌造​

矢巾町は、岩手県のほぼ中央にあり、県内の市町村で2番目に小さい町です。面積にして67・32㎢、県都・盛岡市の南に位置しています。つい数年前までは、流通団地を抱え、宅地開発が進みながらも魅力的な田園風景を残す、どこにでもあるような町でしたが、令和元年9月、県内唯一の大学病院「岩手医科大学附属病院」が本町に移転したことで、町を取り巻く状況は一変。この受け入れに向け、道路整備など体制を整えてきた本町は、矢幅駅周辺の土地区画整理事業の竣工なども加えて、ここ数年で急速な発展を遂げました。

一方で、このような状況であるからこそ、今後は真の意味で、住民に寄り添った町政を進めていく必要があると考えています。大きな病院が町に来たことは、医療・福祉や地域経済の分野で大きなメリットがありますが、必ずしも町民全員が、その恩恵を受けるわけではありません。

町の人口は令和元年11月1日現在で2万7、433人。長らく微増を続けていますが、将来、必ず減少に転じます。そういった情勢の中、未来に、確実にこの町を残すには、生まれ育った、あるいは現在生活している地域における「コミュニティの強化」が重要だと考えています。

本町では、県外の大学など研究機関と連携し、町政の意思決定に「フューチャーデザイン」という手法を取り入れています。この手法は、町民を巻き込んだワークショップが肝で、町民が数十年先の未来人(仮想将来世代)を演じます。

例えば、ワークショップの参加者が未来で生活している設定で「2060年、矢巾はエネルギーと食料の自給率が50%以上になっている」と発言をしました。これを実現するため、今から何をすべきかを考えます。実際の議論では「再生可能エネルギーを活用したハウス栽培に取り組む」「産業別に特化した人材を育てる(教育の場と教育者の確保)」といった意見が出されました。このような意見を精査し、実際の施策として、各種計画に反映させていきます。令和2~5年度の町総合計画後期計画の策定にも、この手法を活用しています。

フューチャーデザインによる本当の成果が表れるのは、十数年、数十年は先のことであると考えています。ですが、このワークショップにより、今の町にとっての財産に改めて気づかされました。それは、町民の皆さんが、ふるさとの将来を真剣に考えてくれることです。

これからの町を支えていくのは、町民の主体性です。町民が、自分の住んでいる地域にとって何が必要かを考え、行動していく。生きがいづくりなどの楽しみから、防災や地域安全といった生命に関わることまで、あらゆる分野に自主的に取り組めることが、究極のコミュニティであると考えます。

本町では今年度から毎月1回、町民5~6人と私が懇談する「町民懇談会」を開催しています。話題は農商工、観光、福祉など、まちづくり全般にわたり、町に対するさまざまな意見や要望を頂いています。私は、この懇談の中でも、町民のエネルギーの大きさを感じています。町民がこんなにも、町に対して思いを持っているのに、ただ意見や要望を聞くだけでは、本当にもったいない。ともすれば、私や町職員などよりも、町勢発展のためになる考えを持っているのではないか、と思うことも多々あります。

このような方々が、意見を述べるだけに留まらず、実際に各地域で行動を起こし、活躍することで、より良いコミュニティが形成されていくものだと考えます。それを実現するため、行政の人間の責務は、余計な口出しをせずに、町民が各地域で活動できる環境を整え、全力で支えていくことであると考えます。

本町は規模からいえば、平成の大合併などによって、大きな市に吸収されていても、不思議ではなかったと思います。しかし、これまで生き残ってくることができた、その根源には、住民がふるさとに対して持つ愛情、誇りがあったと思います。そして、その思いは、埋もれさせてはならない、尊いものであり、今後のまちづくりにおける重要な動力源です。

今後も、「真に町民本位の町」を目指し、町民の思いを中心に置いたまちづくりを進めてまいります。